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真実を創り出すのが映画なんです 映画「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」 オリヴィエ・ダアン監督インタビュー
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「映画とは真実を創り出すもの」と語るオリヴィエ・ダアン監督=2014年9月24日、東京都港区(高橋天地撮影) 米ハリウッドを彩るトップ女優の座をいとも簡単に捨て去り、モナコ公妃となったグレース・ケリー(1929~82年)。傍目(はため)には華麗なる転身を遂げたかに見えるケリーの知られざる葛藤をつまびらかにしたのが、映画「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」だ。「エディット・ピアフ~愛の讃歌~」(2007年)でスターダムにのし上がり、伝記映画を得意とするフランスのオリヴィエ・ダアン監督(47)は、オスカー女優、ニコール・キッドマン(47)をケリーに見立て、どんな“偽りの人生”を確かめたかったのだろう。
多くの伝記があり、映画化にあたって資料に困ることはなかったが、一つ残念に思うことがあった。「モナコ公国側は公式に認める伝記とそうでない伝記を厳格に区別して、今なおケリーのイメージをコントロールしようとしていました。だから僕がさまざまな伝記に基づき『モナコ公国に嫁いだケリーはしきたりになじめず、幸せではなかった』とこの映画で『事実』を描いても、モナコ公国側は『事実ではない』と否定するわけです。僕は伝記に書かれた多くの証言を読み、僕なりの解釈を加えて映画化したにすぎません」
フランスのシャルル・ド・ゴール大統領(1890~1970年)のご機嫌を伺い、窮屈な公務を強いられるケリーの夫、モナコ大公レーニエ3世(1923~2005年)の否定的な描き方についても、モナコ公国側は不満を持ち、映画は事実と異なると批判する“場外乱闘”に発展した。映画は今年のカンヌ国際映画祭でオープニング作品に選ばれたが、3人の子供たちは誰もレッドカーペットに姿を見せなかった。歴史の解釈は当事者によって異なってしまうのは当然のことであり、ダアン監督は「一つの意見」として謙虚に胸に留めておく考えだ。
ただ、あえて丸っきり事実ではない描写も挿入されている。巨匠、アルフレド・ヒチコック監督(1899~1980年)がモナコ公国にケリーを訪ね、新作映画への出演を打診する場面だ。「史実ではヒチコックは電話でケリーに出演を持ちかけました。ケリーは宮殿の中で退屈しきっていて、公務以外に何もすることがなかったと言ってもいい状況にありました。そこで寝た子を起こすヒチコックの役割が重要になってくるわけです。僕が描いたヒチコックはケリーに演技への情熱を再び取り戻させるための火付け役。彼がモナコにやってきて直接、ケリーに出演を口説く方が、ケリーの葛藤を示す象徴的な表現として大切だと考えたわけです」。 真実を描きたいという表現者としての矜持といっていい。
さて、キッドマンがふんするケリーの額の生え際が見事なほど綺麗な真一文字をみせているのが印象的だ。とりわけ違和感を与えるわけでもなく、見る者は地毛と信じて疑わないだろう。ダアン監督は得意満面でこんな種明かしをしてくれた。「実は、映画の中でキッドマンは自分の髪の毛を1本も見せていません。髪型をいろいろと変えているけれど全部かつらなんです。ちゃんとプロがいましてね。映画とはそういうものでしょう。真実を創り出すのが映画なんです」。10月18日、全国公開。(高橋天地(たかくに)、写真も/SANKEI EXPRESS)
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