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台湾軍人の士気低下 付け入る中国スパイ

 中国との緊張緩和(デタント)路線を進めてきた馬英九政権下の台湾で、中国の情報機関が攻勢を強めている。軍隊の縮小方針が士気低下をもたらし、「軍関係者が中国によるスパイ工作の“草刈り場”になっている」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)というのだ。昨年11月に実施された統一地方選で、国共内戦の最前線だった金門県の県長(知事)選に出馬した退役軍人が中国の情報機関のスパイだったことが判明、中国側が台湾の選挙に“介入”した疑いも浮上している。

 退役将校ら6人を起訴

 自由時報(電子版)などによると、台湾の台北地方法院検察署(地検)は1月16日、中国人民解放軍の退役大尉、鎮小江容疑者が台湾の軍幹部らをターゲットにスパイ網を拡大、中国の情報機関に機密情報を流させていたとして、国家安全法違反の罪で鎮容疑者や台湾の退役陸軍少将(58)、退役空軍中佐ら計6人を起訴した。中国の情報機関に協力していた台湾の軍関係者らは10人を超え、「近年で最も大規模なスパイの摘発事案」(自由時報)と報じられた。当局が中国側に取り込まれた台湾の軍人やビジネスマンを摘発することは珍しくないが、中国籍のスパイを逮捕したのは初めてとの報道もある。

 鎮被告は2005年末に香港の居住権を得た後、ビジネスや観光名目で訪台を繰り返し、台湾の現役・退役軍人に接近。旅行や食事、最高1万ドル(約117万円)の現金の提供などを持ちかけ、中国の情報機関のメンバーとなるよう働きかけていたという。

 選挙資金も拠出か

 蘋果(りんご)日報(電子版)によると、起訴された台湾の退役中佐は、かつて空軍軍官(士官)学校で訓練機の教官を務めていた際の人脈を悪用し、仏ダッソー社製戦闘機ミラージュ2000や地対空誘導弾パトリオットなどに関する機密資料を中国側に渡していたとされる。

 自由時報によると、鎮被告は軍関係者を無料で東南アジアや韓国、日本への旅行に招待。第三国の現地で中国の情報機関関係者と食事を共にさせ、機密情報を探っていたという。日本を舞台に中国側がスパイ工作を展開していた可能性も否定できない。

 さらに台湾の退役陸軍少将は、昨年11月の統一地方選で、中国福建省アモイまで十数キロと極めて近い金門県の県長選に出馬。落選したものの候補者10人のうち3番目の得票数だった。当選していれば中国側に多大な便宜を図っていたとみられ、検察は選挙資金が中国側から拠出されていなかったか捜査している。

 友好が脅かす社会的地位

 1月28日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(アジア版)は「台湾における一連のスパイ騒動は、台湾が中国との交流を深める中で縮小された軍隊のモラル低下をさらけだした」と報じた。

 台湾の政府予算全体に占める防衛費の割合は近年減少傾向が続いており、2008年の17.5%から今年は15.9%まで減少。総兵力も現在の約20万人から19年までに17万~19万に削減する方針が示されている。

 ウォールストリート・ジャーナルの記事において、ある退役陸軍大佐は軍人の多くが目的意識を見失っていると指摘。「今や中国と台湾はお互いを明確な敵とは見なしておらず、兵士への敬意がなくなってきている」と嘆いた。

 ウォールストリート・ジャーナルは「歴史的に敵同士だった中台の経済接近により、中国のスパイにとって台湾の軍高官はより容易なターゲットになっている」との軍事アナリストの見方も紹介した。“仮想敵”であった中国との友好が「軍隊の社会的地位に混乱をもたらしている」というのだ。こうしたスパイ事件が繰り返されれば、米国が台湾に高度な軍事技術を供与することに躊躇(ちゅうちょ)する可能性があることも指摘している。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS

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