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中台 民進党勝利で神経戦

 台湾で11月末に行われた統一地方選で、与党、中国国民党が歴史的な大敗を喫し、2016年の総統選で野党、民主進歩党が政権を奪還する可能性が高まっている。これを受けて注目されているのが、中国側の出方だ。当局や中国共産党は民進党を「台湾独立派」と見なし、交流を避けてきたが、今後は“無視”できないというのが台湾内外の観測だ。ただ、中国側も安易に接近しては足元を見られかねず、中台間ではメディアを巻き込んで神経戦が始まっている。

 「蔡氏訪中」報道を否定

 「習近平氏が蔡英文氏の訪中の可能性を検討するよう指示」

 台湾の週刊誌「新新聞」は12月1日付で、こんな見出しの記事を掲載した。記事は「内部関係者」の話として、中国の習近平国家主席(61)が地方選投開票日の11月29日夜、国務院(政府)台湾事務弁公室の張志軍主任(61)らから報告を受け、総統選への影響について質問。さらに、「民進党指導者」、つまり蔡英文主席(58)の訪中の可能性を検討するよう指示した、と伝えた。

 これに対し、台湾事務弁公室の報道官は12月3日、「完全にデマだ」と記事を厳しく批判し、「大陸(中国)の対台湾政策に変化はない」と述べた。中国寄りの台湾紙、旺報は5日、共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報の記事を転載する形で、民進党が08年の馬英九政権成立以降、中台間の交流の基礎となっている「92年コンセンサス」を認め、台湾独立を定めた党綱領を「処理」しない限り、「北京との交流の可能性は存在しない」とするアモイ大学の研究者の見方を伝えた。

 現在のところ、中国側がどの程度、民進党との接近を検討しているかは明らかでない。台湾では15日、党員ではないものの民進党の支援を受けて台北市長に当選した柯文哲(か・ぶんてつ)氏(55)と、訪台していた中国の対台湾窓口機関、海峡両岸関係協会の陳徳銘会長(65)の昼食会が直前で中止になった。中国側が事前に報道機関に情報が漏れたことを嫌気したとみられており、民進党との交流強化に向けた「心の準備」が整っていないことをうかがわせた。

 定まらない方針

 一方の民進党も、中国との地方レベルでの実務交流には前向きながら、核心部分での対中方針が定まっていない。11月末の統一地方選は馬総統(64)が12年に2期目の当選を果たして以降、初めて行われる選挙で、内外のメディアは馬氏の政策、とりわけ対中政策に対する「信任投票」とみていたが、「唯一、民進党だけが、そうではないと強調していた」(台湾の研究者)。

 蔡氏は12年の総統選に臨んだ際、再選を目指す馬総統に対する批判として「一つの中国」を前提とする「92年コンセンサス」を否定してはみたものの、自らは「それに代わる『台湾コンセンサス』が必要だ」と述べただけで具体的な中身を語らなかった。蔡氏は中台関係の安定を求める経済界の支持を得られず落選し、主席も辞任した。民進党内には、その反省から「台湾独立綱領」の「凍結」を求める声があったが、今年再び主席に就任した蔡氏は、7月の党大会で凍結問題も棚上げを決めただけだった。対中政策での論争を避けようとする民進党の姿勢は、国民党が「地方選の敗北は馬政権の両岸(中台)政策とは何の関係もない」(報道官)と強弁する根拠にも利用されている。

 「4つの相互」唱える柯氏

 史上初めて無所属で台北市長に当選し、今やメディアで蔡氏と同等かそれ以上の注目を集める柯氏は22日、中央通信社の取材に対し、「なぜ22年前の合意を今日の議論の基礎としなければいけないのか」と「92年コンセンサス」に否定的な見解を表明。それに代わり、中台関係は「相互に認識し、了解し、尊重し、協力する」という「4つの相互」に基づくべきだと訴えた。これに対し、対中政策を主管する行政院大陸委員会の王郁●(=王へんに奇)主任委員(45)は「地方政府の首長は両岸政策について論評する必要はない」と不快感を表明したが、民進党が対中政策に正面から向き合うことを避け続けた場合、柯氏らが今後の議論を主導していく可能性も否定できない。(台北支局 田中靖人(たなか・やすと)/SANKEI EXPRESS

 ■92年コンセンサス 「『一つの中国』を各自が表明する」とする中台間の共通認識で、1992年に中台の交渉機関が確認したとされる。中国が「中華人民共和国政府が中国唯一の合法政府」とするのに対し、台湾当局は「中国とは中華民国」と主張するが、中国大陸と台湾をともに「中国」とする点で、「一中一台論」や「二国論」とは異なる。

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