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国際
中韓FTAにおびえる台湾
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11月18日、台北市内で、中韓FTA(自由貿易協定)の影響について記者会見する台湾の杜紫軍経済部長=経産相、右=ら。「後発」だった韓国に先を越された危機感がにじんだ=2014年、台湾(田中靖人撮影)
中国と韓国が10日の首脳会談で実質的に妥結した自由貿易協定(FTA)に、台湾が警戒感を強めている。対中輸出製品の7割以上が韓国と重複しているためで、台湾当局は経済に「重大な影響が生じる」と分析している。中台は2010年に事実上のFTAを締結しているが、具体化の協議が進んでいない。台湾では16年初頭に総統選が予定されているため、反対論が根強い中台協議の加速化は見込めず、馬英九政権は焦燥感にとらわれている。
中国の習近平国家主席(61)と韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領(62)は10日、北京で会談し、FTAについて年内の協議終了と15年中の発効を目指す方針で一致した。台湾の経済部(経済産業省に相当)によると、台湾と韓国の対中輸出製品の「相似指数」は75%に達する。中韓FTAが発効した場合、こうした台湾製品が関税の低い韓国製品に取って代わられるため、輸出額は1.34%に相当する37億5000万ドル(約4400億円)低下し、域内総生産(GDP)を0.5%押し下げると予測されている。特に影響を受ける産業は、鉄鋼、自動車部品、石油化学、ガラスなど7分野だという。
台湾と中国は10年、事実上のFTAに相当する「経済協力枠組み協定(ECFA)」を締結。先行実施項目(アーリーハーベスト)として、台湾から中国向けで539品目の関税を自由化した。だが、台湾では13年に締結した「サービス貿易協定」の批准に反対する学生らが今春、立法院(国会)の議場を占拠するなど、過度の対中依存に対する反感が噴出した。この影響で「物品貿易協定」の協議は中断し、当初目標だった14年内の妥結は絶望視されている。
中韓両国がFTA交渉を始めたのは12年で、台湾としては「後発」の韓国に追い抜かされた形になった。杜紫軍経済部長(55)=経産相=は19日、「自分は寝ていて動かず、韓国にゆっくり歩くよう期待することはできない」と述べ、韓国に後れを取った原因は台湾側にあるとの認識を示した。
中韓FTAによる打撃は、対中輸出だけに留まらないとの指摘もある。台北のシンクタンク、中華経済研究院の王健全副院長は11月16日付の中国時報への寄稿で、中国市場に進出する「跳板」としての台湾の価値が下がるため、外国から台湾への投資額が減少するなど、長期的な経済成長に悪影響を及ぼすとの懸念を示した。
だが、中台の経済協議を加速し、韓国に追いつける見通しはない。王金平立法院長(73)=国会議長=は4月、議場を占拠した学生らに退去の条件として、「サービス貿易協定」の審議前に中台協議の監視法を成立させることを確約した。ただ、立法院では監視法案の審議すら始まっておらず、サービス貿易協定は審議入りの予測もできない状態だ。
馬英九総統(64)が香港の大規模デモに支持を表明したことなどで中台関係は冷却化しており、中国側に物品貿易協定交渉で大幅な譲歩を期待することもできない。そもそも中国側は、サービス貿易協定の批准前には物品貿易協定を締結しない方針とみられている。
台湾では29日投開票の統一地方選が終わると、16年の総統選に向けた「政治の季節」が始まり、与野党の対立が激化することが予想される。野党、民主進歩党はサービス貿易協定に反対しており、立法院での批准は容易ではない。馬総統は08年の就任以来、中国との経済関係の強化を政権浮揚策にしてきたが、対外的にも対内的にも手詰まりの様相を呈している。
馬総統は20日、与党、中国国民党の会合で、中韓FTAが発効した場合、台湾経済は「ゆでガエル」のように徐々に圧迫されていくと警鐘を鳴らした。その上で、民進党に対し「大陸(中国)市場を放棄したいのか」と訴え、サービス貿易協定の早期批准を求めた。(台北支局 田中靖人(たなか・やすと)/SANKEI EXPRESS)