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介護報酬引き下げ 在宅支援に重点 賃上げは至難 遠い人手不足解消
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東京都内の特別養護老人ホームで空いたままのベッド。人手不足で新規入所の受け入れ停止を検討中だ=2015年2月6日(共同) 厚生労働省は6日、社会保障審議会の分科会を開き、2015年度から3年間の介護保険の各サービス料金を決めた。事業者に支払う介護報酬の改定率を全体で2.27%減とする中、認知症や介護の必要性が高い高齢者でも地域で暮らし続けられるよう、訪問介護など在宅支援に手厚く配分。人手不足の解消に向け、職員の賃金が1人当たり平均月1万2000円上がるよう「処遇改善加算」を拡充する。
報酬引き下げは、年10兆円に膨らむ介護費用の伸びを抑える狙い。在宅に比べると施設サービスの下げ幅が大きく、特別養護老人ホーム(特養)では多くの事業者が減収となる。
特養は厚労省調査で利益率が高かったため、基本的な料金を5%超引き下げる。職員を増やすなどサービスの質を高めれば報酬の水準を維持できるが、多くの事業者にとってはハードルが高い。
訪問介護は、中重度の要介護者に積極的に対応すれば報酬を上乗せする。1日に複数回ホームヘルパーらが訪問する「24時間地域巡回型サービス」の体制整備も促す。通いを中心に宿泊や訪問を組み合わせる「小規模多機能型居宅介護」も、訪問サービスや終末期の「みとり」を充実すれば加算する。改定に合わせた見直しで、特養の相部屋代として日額470円、月額だと1万4100円前後を8月から入所者に求める。低所得者は免除する。
介護職員は仕事の厳しさに賃金が見合っていないとされ、離職率が高い。厚労省は、25年に250万人の介護職員が必要だが、現状では30万人不足すると推計している。
≪賃上げは至難 遠い人手不足解消≫
4月からの新たな介護報酬が決まった。政府は平均単価を2.27%減額する一方で、人手不足が深刻な介護職員の賃金増を目指すとするが、減収が予想される事業者にとって賃上げ実現は難題だ。
「パートや非正規ばかりで、長く勤められる正規職員を確保できない」
東京都内で特養を運営する社会福祉法人の幹部が嘆く。業務の負担が重いことなどを理由に退職者が相次ぎ、数年前に比べ職員が約30人減った。日常業務の中心をパートに頼らざるを得ない。
昨年12月時点で、介護関係職種の有効求人倍率は全国平均で2.68倍。売り手市場のうえ、低賃金と重労働のイメージから人材確保が難しい。法人幹部は「同業者間で優秀な人材の奪い合いも起きている」と話す。
夜勤に急な欠員が出れば、正規職員が休日返上で出勤する。重くなるばかりの負担に、鬱病を患う職員も出てきた。職員の負担を減らそうと悩んだ末、退所者が出てベッドが空いても、新規入所の受け入れ手続きの一時停止を検討している。
空きベッドがあるのに、職員が足りないため受け入れ困難-。特養の待機者は全国で約52万人に上るが、こんな矛盾した事態が起きている。
今回の報酬改定で厚生労働省は、職員1人当たり月1万2000円の賃金増となる「処遇改善加算」の拡充を目玉に掲げた。
加算による収入が事業者の運営資金などに回っては、職員の賃上げに結びつかない。そこで厚労省は、賃上げの計画や実績の報告を事業者に義務付けた。加算を獲得するには(1)賃金体系の整備(2)研修の実施(3)正規職員への転換などに取り組む-の条件を課し、処遇改善を確実にしたい考えだ。
だが、利用者減少などで収入が落ち込んだ場合は、職員給与を下げて加算報酬で穴埋めすることも例外的に容認している。この場合は賃金増が望めないが、厚労省幹部は「条件を厳格化し過ぎると、そもそも加算を受けない事業所も出てくる」と説明する。
処遇改善加算で実際に賃上げは実現するのか。懐疑的な見方も多い。6日の社会保障審議会の分科会では、委員から「賃金アップは極めて不確かだ」との指摘が相次いだ。国会論戦でも、民主党の山井和則衆院議員が「収入が減る事業者が、どうやって賃金を上げられるのか。机上の空論だ」と批判した。
兵庫県伊丹市で特養を運営し、訪問介護も手がける社会福祉法人の理事長は、在宅サービス重視の改定をにらみ、訪問介護の業務量を増やすことも模索している。しかし「介護に不慣れな新人職員は目が届く施設の方が教育しやすい。経験が問われる在宅は人材確保のハードルがより高い」と頭を抱える。
都内の福祉系コンサルタントは「小規模事業者は淘汰される可能性もある」と指摘。「事業者にとっては厳しい『いばらの道』だが、給与増を実現しなければ人材は集まらない。改定で厚労省の誘導するサービス内容に合わせなければ生き残れないだろう」と話す。
埼玉県八潮市の自宅で要介護度5の母(91)を介護する関正子さん(63)は「事業者の経営が立ちゆかなくなって、私自身が介護を受ける頃には近所から撤退してしまうのでは」と心配する。(SANKEI EXPRESS)