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不安な私生活でも明るい曲ばかり バイオリニスト 吉田恭子さんインタビュー
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リサイタルを行うバイオリニストの吉田恭子さん。バイオリンは名器グァルネリ・デル・ジェス=2014年4月25日(岩切等さん撮影、提供写真) バイオリニスト、吉田恭子が3月、年に1度のリサイタルを東京・紀尾井町の紀尾井ホールで開く。プログラム前半のメーンはベートーベンの有名曲バイオリン・ソナタ第5番「スプリング・ソナタ」。「何度も演奏してきた作品ですが、最近ようやく、ベートーベンの一音一音にリアリティーを感じられるようになりました」と話す。
リサイタルで、やはりよく知られたバイオリン・ソナタ第9番「クロイツェルソナタ」は取り上げたことはあるが、5番は初めて。
「なぜ『スプリング・ソナタ』を弾かないの?と聞かれます。あまりにも有名な作品です。最近、ベートーベンの音の必然性を感じられるようになりました。この曲を弾いていると、激情型といわれるベートーベンはユーモラスな人だったのではないかと思います。『スプリング・ソナタ』は、プログラムの最初に決めました」という。
この作品は1801年、ベートーベンが31歳のころに作曲された。翌02年には、難聴による絶望などをつづった「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いている。
「『スプリング・ソナタ』を書いたころには、死にたいと思っていたはずなのに、明るく生命力ある曲です。不安な感じはまったくしません。ベートーベンの前に演奏するモーツァルトのソナタ第27番は、マンハイム時代に作曲されました。具合が悪かった母親をその半年後に亡くします。情緒不安定な状態で書かれており、普通のソナタ形式ではなく、心のもろさがハ長調の中に表れています」
実は、今回の選曲の隠されたテーマが「死」。後半のプロコフィエフ、ラフマニノフ、チャイコフスキーと続くロシア・プログラムにもそれは見て取れる。
「プロコフィエフの『ロミオとジュリエット』はシェークスピアの物語と違い、ジュリエットに重きが置かれているので、死を予兆させます。ラフマニノフの『ロマンス』などはチャイコフスキーの亡くなった年に書かれました。ラフマニノフはチャイコフスキーが大好きでした。そしてチャイコフスキーの『ワルツ・スケルツォ』は、結婚に失敗し自殺未遂を起こし、逃避行していたときに作曲しました。しかし、ハ長調で書かれました。かれんで華やかな曲です」
それぞれの曲の背景に何らかの形で死の影があるからといって、みな決して暗く陰鬱な曲ではないということが、作曲家と作品の関係のおもしろさだろう。
「私生活では不安なのに曲はみな明るいのです。悲しいことが起きたときには、何げないことが幸せだったと思い出すからでしょうか。後半はロシアの良い時代の作品。ロシアの深い色彩感を味わっていただきたい」(月刊音楽情報誌「モーストリー・クラシック」編集長 江原和雄/SANKEI EXPRESS)
3月6日(金)19:00、紀尾井ホール(東京)。<モーツァルト>バイオリン・ソナタ第27番。<ベートーベン>バイオリン・ソナタ第5番「スプリング・ソナタ」。<プロコフィエフ>組曲「ロミオとジュリエット」ほか。白石光隆(ピアノ)。問い合わせは、ムジカキアラ(電)03・5739・1739