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【辛酸なめ子の映画妄想記】女性が浮気へ進むさま 自然に描く

 田舎の平凡な主婦がパリにプチ逃避行する「間奏曲はパリで」(仏、マルク・フィトゥシ監督)は、多くの女性の共感を得られそうな作品です。昨年は「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」(フジテレビ系)など不倫ドラマが話題になったり、女性の側の浮気で離婚する芸能スキャンダルも世間を騒がせました。どのように女性は浮気するのか? この映画には自然な演出で、浮気の一連の流れ(浮気心が芽生え、盛り上がり、萎(な)えるまで)が描かれています。女性の共感を得ると申しましたが、後学のために世の夫や彼が見ても良さそうです。

 女として扱われないストレス

 イザベル・ユペール(61)演じるブリジットはノルマンディーで畜産農家を営むグザヴィエ(ジャン=ピエール・ダルッサン)と長年連れ添っています。2人は倦怠(けんたい)期で夫は妻をぞんざいに扱っています。妻が作った豆腐バーグがまずいと文句を言ったり、妻が撮影したデジカメ写真がピンぼけしていたらパーキンソン病呼ばわりしたり…。女として丁寧に扱われない日々でストレスがたまったのか、抑圧された女性ホルモンの叫びなのか、胸に大量の湿疹が発生したブリジット。妻の内面の悶々(もんもん)とした思いを、湿疹という形で表現しているのがリアルです。

 それにしても、奇跡の60代、ユペールが演じると田舎の主婦は少女のようでキュートです。いかにもフェロモンムンムンなマダムよりも、熟女界のロリータ的魅力を持つブリジットの方が、年齢に関係なく異性にモテ、不倫のチャンスも多そうです。

 ある時、ブリジットは隣の家のパーティーでイケメンの若者スタン(ピオ・マルマイ)と知り合い、「きれいだよ」と言われたり、一緒に踊ったりしていい感じになります。スタンを狙う若い女子の嫉妬の視線を受け、久しぶりに女として目覚め、活性化したブリジット。夫に「パリの皮膚科の予約が早朝なので前泊する」と手のこんだ嘘をついて、彼に会いに行ってしまいます。毛皮帽にベルボトム気味のデニム、赤茶色のコートというダサいファッションでスタンの働くアメリカンアパレルに行き、妙な存在感を放つブリジット。すぐにスタンに見つかりますが、女のプライドで偶然を装います。

 罪悪感の軽いアバンチュール

 しかし「良かったらこのあと…」「何?」「夕食でも」と、自分から誘う羽目になり、すっかり若者の方が優勢です。なんとかデートを取り付けたブリジット。変に若作りしようとして自分を見失っていく展開は、年下男子を好きになった経験のある女性なら感情移入できそうです。ネイルサロンに行き、花柄のブラウスをおろし、さらには露店で売っていた安っぽいバンダナが何かヤングな気がして買ってしまう…。そして満を持して約束のカフェで待ちますが(表情はクールな大人の女風)、スタンに「急に用事ができた」と言われ、デートのはずが知らない人のマンションで一緒に子守りする羽目に…。そこでスタンが、小説の本を破ってマリフアナを巻いている姿を見て幻滅。熟女はモラリストです。

 でも、一度活性化した女性ホルモンはまた別の男性を引き寄せ、今度は同じホテルに宿泊している歯科医師のおじさん(ミカエル・ニクヴィスト)といい感じになってしまいます。それを尾行してきた夫が目撃、というかなりスリリングな展開に。

 歯科医師は、湿疹には「死海の塩が効く」とアドバイスしてくれた上、独自の方法で癒やす、と湿疹にキスまでしてくれます。やっと女として愛撫(あいぶ)してもらい、身も心も解放されるブリジット。あとから夫に何か聞かれたら「医師に特別な治療をしてもらった」と言えます。歯医者ですが嘘はついてません。女性は器用で現実的で、アバンチュールと治療と観光と買い物と…何でも同時進行できてしまうのです。こんな罪悪感が軽くて済む浮気があったら理想的、と世の女性の心を掴(つか)むに違いない作品です。4月4日から東京・角川シネマ有楽町ほかで全国順次公開。(漫画家、コラムニスト 辛酸なめ子/SANKEI EXPRESS

 ■しんさん・なめこ 1974年、東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。近著は「辛酸なめ子のつぶやきデトックス」(宝島社)、「セレブの黙示録」(朝日新聞社)、「辛酸なめ子の現代社会学」(幻冬舎)、「霊的探訪」(角川書店)など。

 ※映画紹介写真にアプリ【かざすンAR】をインストールしたスマホをかざすと、関連する動画を視聴できます(本日の内容は6日間有効です<2015年2月18日まで>)。アプリは「App Store」「Google Playストア」からダウンロードできます(無料)。サポートサイトはhttp://sankei.jp/cl/KazasunAR

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