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【国際政治経済学入門】いずれ霧散 危ういチャイナマネー

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【国際政治経済学入門】いずれ霧散 危ういチャイナマネー

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2014年の訪日外国人数と消費額(データ:観光庁)  中国の旧正月「春節」の2月下旬。世界の主要都市がチャイニーズ・マネーに席巻された。日本では連日のようにテレビが中国人買い物客の「爆買い」ぶりを報じ、東京・銀座では数百万円の宝飾品、10万円もする赤色の電気釜などが飛ぶように売れた。成田空港では帰国する中国人団体客の重量制限オーバーの旅行ケースが長蛇の列をなした。日本ばかりではない。香港では、大陸から群れをなして日用品を大量買い付けするので、住民が抗議デモに立ち上がった。ドイツでは中国人旅行者が赤ちゃん用粉ミルクをまとめ買いするので、店はあわてて、粉ミルクの売り場に鍵をかけた。品切れになれば、地元の赤ちゃんが被害を受けるからだ。

 まさか、すべてではないだろうが、中国人旅行者の「マナーの悪さ」は海外に暮らすチャイニーズが「中国人の恥だ」と怒り出すほどだ。なるほど、あるデパートでは、中国人の若者がブランド品や宝飾品をウインドーケースから次から次へと取り出せては、スマホでパチリ。本国の家族や仲間に見せてどれがいいか、大声上げて相談。楽しくてたまらない様子だ。

 そんな具合だから、店内は喧騒に包まれる。地元客からは苦情が殺到する。さりとて、中国人を締め出せばせっかくのビジネス・チャンスを失う。

 ニューヨークの高級デパート、メーシーはそこで苦肉の策をとった。一般客用の閉店時間を午後5時に繰り上げ、5時からは中国人団体客向け「貸し切り」とした。

 湧き出る人民元

 いったい、中国人のマネーパワーはどの程度か。

 中国人の買い物はもっぱらデビットカード「銀聯カード」を使用する。円代金は中国の銀行に持つ預金口座から相当額の人民元が引き落とされる。そこで、中国の現預金総額(M2)はどのくらいあるか、ドル換算してみると驚くことなかれ。2014年末は20兆ドル(約2400兆円)強に上る。日本の7.5兆ドル、米国の11.6兆ドルを圧倒している。中国の年間増加額は2兆ドルに上る。14年末の中央銀行の資金発行の年間増加量「1」に対するM2増加量の割合は中国の「5.3」に対し、日本は「0.42」、米国は「1」だから、中国人民銀行が刷るカネによる現預金創出力は爆発的で、人民銀行を支配する中国共産党は、空前絶後の世界的錬金術師である。

 人民元は日米欧など先進国でそのまま使える「ハードカレンシー」とはみなされていない。ところが、銀聯カードで人民元を外貨に替えなくても使えるのだから、中国人旅行者にとってそのハンデはない。彼らは打ち出の小づちのごとく沸いてくるカネを思う存分に海外ショッピングに投じているわけである。東京・銀座もパリ・シャンゼリゼもニューヨーク5番街もそのチャイナ・マネーで潤う。

 そればかりか、特権を持つ中国の富裕層や党幹部は人民元をうまく外貨に替えて、世界の各地の高級不動産物件を買いあさっている。このままチャイナ・マネーが膨張を続けるようだと、世界のモノも不動産もことごとく中国人に買い上げられるのではないか、とすら想像してしまう。

 パワーの源はドル

 奇怪な人民元パワーの源泉は実はドルにある。人民銀行は管理変動相場制度を堅持し、中国に流入するドルをことごとく自身が決める交換レートで買い上げ、その分の人民元を市中に流し込む。人民元はドルに対して安定し、しかも、国内ではインフレ率も低位に推移している。となると、人民元の通貨価値は超安定というわけで、国内外で信頼されてくる。

 米国内ではこの人民元制度に対し、変動相場制への移行を求める声が今ではほとんど聞かれなくなった。産業界や金融界が中国市場を重視しているからだ。欧州となると、ドイツも英国もフランスも米国以上にビジネス権益最優先で、北京にすり寄る。事なかれ主義の日本の財務官僚は米欧に追随することしか考えない。そんな具合だから、国際通貨基金(IMF)は人民元を「国際通貨」として今秋までに認定する公算が大きい。となると、北京は大手を振って人民元を増殖させて、世界にばらまくだろう。

 春節の銀座の風景は、チャイナ・マネー景気にすがり、それにどっぷり漬かりたがっている世界の縮図である。それはいかにも危うい。中国経済は事実上マイナス成長に陥っている。バブルの歴史を思い起こせばよい。実体経済から遊離して膨張するカネはある日突然、雲散霧消する。(SANKEI EXPRESS

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