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春節の新たな風習 「オンラインお年玉」

 中国の人々にとって最も重要な祝日、春節(旧正月、今年は2月19日)の長期休暇がようやく終わり、新年を迎えた街には、一気に日常の活気が戻ってきた。春節といえば、除夕(大晦日)の夜、年越しの瞬間に最高潮を迎える爆竹や花火の喧噪が“風物詩”だが、ここ数年、新たに「オンラインお年玉」に一喜一憂する風習が定着しつつある。

 「紅包」の習慣を利用

 中国にはもともと、春節に「紅包(ホンパオ)」と呼ばれる「お年玉」を贈る風習がある。赤をあしらった祝儀袋が用いられることからこう呼ばれるのだが、中国メディアによると、「紅包」の由来は「各家が年を越す際に、入口に赤レンガを置き、新しい年の幸運を願ったのが始まり」と伝えられている。「紅包」という伝統的習慣で、「さらに深い文化儀式的な雰囲気が加味される」のだという。

 この風習を利用した「オンラインお年玉」に先鞭(せんべん)を付けたのは、中国の電子商取引大手アリババグループの決済システム「支付宝」。そこに、中国のインターネット大手、騰訊(テンセント)が運営するスマートフォン向け無料通信アプリ「微信」(WeChat)などが参入した。

 特に、お年玉を送る側が総額を決め、複数の友人・知人に早い者勝ちで配る、ソーシャルネットワークの利点を生かした「微信紅包」システムが人気という。受け取る金額は開けてみるまで分からない、というゲーム感覚が人気の秘密といわれている。

 今年は総額1900億円

 「支付宝」「微信」を含む4大電子商取引企業が今年、展開する「オンラインお年玉」は総額100億元(約1900億円)に達すると報じられていた。2月2日にスタートした中国版ツイッター「新浪微博(シナウェイボー)」のお年玉キャンペーンは、春節前の時点で延べ1億7000万人が参加。約3100万人が、総額5億元(約95億円)の「お年玉」を獲得したという。

 中国共産党機関紙、人民日報によると、「支付宝」は国営の中国中央テレビとも連携。人民日報は、中国の国民的な年越し番組「春晩」の公式微博アカウントを開設し、現金1億元(約19億円)と2億元(約38億円)分の金券、合せて3億元(約57億円)を出すと伝えた。「1分当たり40万元(約760万円)分のお年玉が出る計算」というから驚きだ。

 当然のことながら、こうした「オンラインお年玉」は、善意から行われているわけではない。人民日報は「表面的にはユーザーがお年玉を争奪しているように見えるが、その裏側ではインターネット大手がユーザーのモバイル決済の習慣を争奪しているのだ。モバイルネットワークの時代、先に優れた体験によりユーザーを引き留め、その習慣を形成した企業が、未来の競争において大きな主導権を手にすることができる」と分析している。

 温かい人情はどこへ

 一方、伝統的な「紅包」も様変わりしている。かつては数十元程度だった額が年々高騰。昨年、北京紙、新京報が北京市内の10歳から13歳の子供90人を対象に調査したところ、平均額は前年比5%増の4867元(約9万2000円)。最高額は2万元(約38万円)だった。また、地方幹部に対する“賄賂”の隠れ蓑として利用されることもあったという。

 お年玉の高騰によって、年末のボーナスを使い果たしてしまうケースもあるという。中国のネット上では昨年、「春節が同じ発音の春刧(春の略奪)になった」という自虐的な冗談も広まった。

 中国の専門家が2年前、「赤い袋に入れて渡すお年玉は、家族や友人の間の温かい感情を表すものだったはず。企(たくら)みのない祝福という本質に立ち返らなければ、そこにこめられた中国の温かい情を取り戻すことはできない」と憂慮していた状況は、改善されるどころか悪化しているようだ。(中国総局 川越一(かわごえ・はじめ)/SANKEI EXPRESS

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