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印レイプ事件 ドキュメント放送禁止に批判
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2012年12月、ニューデリーで起こった凄惨(せいさん)なレイプ事件を題材にした英BBC放送のドキュメンタリー映画「インドの娘」がインドで波紋を呼んでいる。映画はBBCと英国人の女性監督によって、約2年かけて制作された。約1時間の作品には、バスの中で激しい暴行やレイプを受けた末、後日死亡した23歳の女性の両親や友人などの話のほか、犯行グループの1人で、死刑判決の確定を待っている被告へのインタビューも含まれている。この中で被告が、「まともな女性は夜に外を歩き回ったりしない。レイプされるのは女性の責任のほうが大きい」「レイプの最中に抵抗しなければよかった」などとインタビューで発言したことが事前にメディアで大きく取り上げられたことから、映画は放送前からたちまち注目を浴びる存在になった。
BBC側は3月8日の「国際女性デー」にあわせてインドの民放テレビ番組で放送する予定だったが、デリー高裁が当局の要請を受けて4日にテレビとインターネット上での放送を禁止した。だが、BBCは英国で4日夜に放送に踏み切った。
放送禁止措置に関する表向きの理由は、映画が事件後に起こったような全土規模の抗議デモを惹起しかねないと政府が懸念したというものだ。また、政府は映画の制作者らが警備が最も厳しいとされる刑務所内で犯人に約16時間にわたってインタビューしたことを問題視。監督側は刑務所などと交わした文書などを公開し、手続きに瑕疵(かし)はないと説明しているが、政府は経緯を調査する方針を表明している。閣僚からは、映画が「インドをおとしめようとするための(西側の)陰謀」といった発言さえ出ており、映画への風当たりは強い。
インド国内では、BBCと共同制作に携わったインドの民放テレビ局への嫉妬からか、他のテレビ局を中心に政府の対応を評価する声が出ている。
しかし、インド英字紙のインディアン・エクスプレスは5日の社説で、政府の対応を「間違った憤怒」と非難。映画よりも現実はとんでもないとして、「レイプ犯の有罪判決率は1973年の44.28%から、2012年の24.21%に減少し、13年の国家犯罪記録局(NCRB)のデータによると女性に対する犯罪は27%増加した」と、具体的な証拠を突きつけ、犯罪の通報が増えたにも関わらず、改善されていないことを「憂慮すべき状況」と嘆く。
さらに、映画の中で被告の弁護人が女性への偏見をあらわにするように、「あまりにも多くの著名人が被害者を責める傾向をみせており、こうした現実こそがインドのイメージを傷つけている」と強調する。
海外メディアも概ね政府に批判的だ。英紙ガーディアン(電子版)は3月5日付社説で、「映画の真の貢献は、あらゆる偏見をあばくことにある」とし、放送禁止とすることによって、政府は「レイプと女性蔑視の関連性を把握することができない、または消極的であることを露呈した」と痛烈に批判した。
インド同様に女性に対する犯罪が深刻なパキスタンのメディアも同調する。5日付の英字紙ネーションの社説は、「インド政府の性犯罪を阻止しようとする決意は疑わしい」として、「レイプ犯の厳罰化に取り組んだものの、被害者に何が起こったのかを明らかにしないなど、醜い真実を隠蔽し続け、苦々しい問題に取り組もうとしない姿勢を示している」と指摘。また、レイプを正当化した被告の発言にみられるように、「映画はインド社会の一面、さらには広範な南アジア社会をさらしたものであり、激しい恥の元となっている」として、自国の状況も重ね合わせた。
今回の放送禁止は言論の自由を侵害しているとの批判の声も上がっている。ところが、いまや規制すれば、規制の対象となった作品などがかえって話題になる。「インドの娘」もその例にもれず、動画サイトなどで拡散し続けている。3月6日付米紙ニューヨーク・タイムズの記事は、あるインド人記者の言葉を引用して、インド政府を「映画の最大のプロモーター(推進者)」と皮肉った。(国際アナリストEX/SANKEI EXPRESS)