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仮想で歩くエベレスト街道 Google「ストリートビュー」に周辺地域追加
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エベレスト・ベースキャンプを見渡すクンブ氷河上の丘にたどり着いたトレッキング客たち。この景色を求めて、高山病と戦いながらエベレスト街道を1週間以上かけて歩いてきた。ストリートビューによる仮想体験ははるかに手軽だ=2013年4月16日、ネパール・エベレストベースキャンプ(早坂洋祐撮影) 米グーグルが2007年にサービスを開始した「ストリートビュー」で12日から、世界最高峰エベレスト(標高8848メートル)周辺の仮想トレッキングツアーが体験できるようになり、世界中の登山好きやアウトドアファンを喜ばせている。ストリートビューではすでに南極大陸や南米アマゾンの密林、カナダ北極圏のツンドラといった秘境の仮想ツアーが楽しめるが、今回、ベテランのシェルパ(ガイド役)らの協力で、世界中の登山家の憧れであるエベレストが青空にそびえ立つ光景や、雪に覆われた過酷な自然環境下で暮らす人々の様子などがパソコンやスマートフォンで垣間見られるようになった。
仮想トレッキングツアーでは、エベレストがそびえるネパール側のサガルマータ国立公園で雪に覆われた山頂の下を青く凍る川が流れ、僧侶が伝統的な音楽を奏でたり、ヤクの放牧民が切り立った岩だらけの山道を進んでいく様子が楽しめる。
3月12日付のフランス通信(AFP)や英紙ガーディアン(電子版)などによると、エベレスト周辺の仮想トレッキングツアーは2011年、冒険好きのグーグル社員4人が立案。この壮大な計画に、カトマンズが拠点のベンチャー事業「ストーリー・サイクル」と、エベレスト登頂に21回成功した後、引退し、教育分野の慈善団体を立ち上げた地元ネパール人の登山家、アパ・シェルパさん(55)が協力した。
彼らは単眼レンズの三脚カメラ2台のほか、15枚のレンズを搭載した特注の円形カメラ「トレッカー」などを背負い、登山ガイドや荷物運びで生計を立てるヒマラヤ山脈東部のシェルパ族の村々を探訪。4万5000枚ものパノラマ画像を撮影し、それらを元に仮想ツアーのサービスを作り上げた。
グーグルの慈善プログラム「グーグル・アース・アウトリーチ」のプログラム・マネジャー、ローリー・シームスター氏によると、「一行は、こうした最新カメラなどを用い、昨年3月に11日間かけてエベレスト街道をベースキャンプまでたどり、道中、修道院や学校、診療所などの内部も撮影した」という。
しかし、仮想トレッキングツアーの狙いは単に秘境の風景を楽しんでもらうことだけではない。アパさんは12歳で父親を亡くしたため学校を中退し、ポーターとして働かざるを得なかった過去を振り返り、AFPに「世界中の誰もがエベレストを知っているが、周辺の村々の苦しい生活はほとんど知られていない」と指摘。「ストリートビューのおかげで誰もがこうした村々を見ることができ、支援が必要だと理解できるだろう。これを機に、村々に学校や病院を建てる資金が調達されることを期待したい」と訴えた。
実際、シェルパの仕事は危険と隣り合わせだ。昨年4月にエベレストのアイスフォール(氷瀑、5900メートル付近)で起きた雪崩では16人が亡くなった。「彼らは毎年、山で死んでおり、これまでにとても多くの命を失っている」と語るアパさんは「私の夢はエベレストの登頂成功ではなく、ネパールの子供たちが危険なポーターに従事することなく、教育の機会に恵まれ、より良い暮らしを送れる日が来ることだ」と訴えた。(SANKEI EXPRESS)