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人材奪い合う下請け 苦渋の賃上げ 春闘大詰め ベアめぐり労使攻防
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トヨタ自動車系列の自動車部品メーカーの工場。人材確保の難しさから、業績以上の賃上げに踏み切る企業も出ている=2015年3月12日(松岡朋枝撮影) 自動車や電機大手で昨年を大きく上回るベースアップ(ベア)が見込まれる2015年春闘。政府が目指す「経済の好循環」実現に向けて、雇用の7割の受け皿とされる中小・零細企業の賃上げの動きにも注目が集まっている。トヨタ自動車の下請け企業が多く集まる愛知県西三河地区の現場を訪ねると、余裕がなくても賃上げに踏み切らざるを得ない中小・零細企業の苦渋が浮かび上がってきた。
「もうかったから給料を出すのではなく、将来に期待して出すことにした」
トヨタ系列でエンジン部品などを製造する西尾市の2次下請け企業。男性経営者(48)は2年連続で賃上げに踏み切る理由をこう説明した。従業員は約50人。売上高はリーマン・ショック前の85%程度で、原材料価格の高騰も利益を圧迫している。それでも、月1%程度の賃上げを決断した。
背中を押したのは、「人材確保の難しさ」だ。大手の業績回復に伴って仕事量が増え、2年ほど前から6人を採用したが、働き手の奪い合いは激しくなる一方。採用した半数が別の企業に移ってしまうという。
刈谷市の部品メーカーも今春、2年連続で賃上げを実施する方針だ。男性経営者は「従業員のモチベーションを維持するため」と話す。だが、業績は上向いているとは言い難く「日々の『カイゼン』で原資をつくるしかない」と話す。
海外販売の好調や円安で業績好調なトヨタなど大手各社は、今春闘で2年連続のベアを実施する見通し。ただ、自動車部品メーカーの6割程度は国内のみで事業を営んでおり、円安の恩恵どころか、むしろ海外部品の調達コストの増加などで負担が積み重なる。
豊田市の研磨会社の経営者は「10年、20年続く仕事が入れば設備や人に投資をしたいのだが」と賃上げには消極的だ。円安で自動車生産が国内回帰の動きを見せ、新しい仕事の依頼も舞い込むが「為替が変動すれば、いつまた海外に移されるか分からない」との不安を拭うことができない。
昨年の春闘では、大手企業は幅広い業種でベアに踏み切ったが、経済産業省の調査では中小企業でベアを実施したのは約2割。賃金の格差は広がった。
自動車総連が今春闘で統一要求に掲げた「月額6000円以上」のベアは、中堅・中小企業の底上げを強く意識。その結果、加盟1060組合の平均要求額は、昨年の約2倍に当たる5904円の高水準となった。
トヨタは好業績の恩恵を中小の取引先にも波及させようと、下請けメーカーに年2回行ってきた値下げ要求を26年度下期と27年度上期の2期連続で見送った。賃上げなどの原資に充ててもらう狙いがある。
賃上げを決めた西尾市の経営者は「年間で100万円程度の値下げになるので、見送りにホッとした」と胸をなで下ろす。ただ、値下げ要求の見送りは他の自動車大手には広がっていないのが現状で、「トヨタだけが声を上げても意味がない」(愛知県の3次下請けの経営者)との声も少なくない。
大手の春闘交渉が大詰めを迎えた12日、菅義偉(すが・よしひで)官房長官(66)は「昨年12月の政労使会議で、政府として、企業収益が賃金や下請けの設備投資に結びつくようにしてほしいとお願いしている」と強調した。
「小さなネジが1本なくても良い車はできない」(中小企業の組合幹部)といわれる自動車業界。今春闘が、「人への投資」を業界の裾野にまで広めるきっかけとなるのか。日本の製造業の競争力強化のカギを握る春闘といえそうだ。(松岡朋枝/SANKEI EXPRESS)
≪自動車・電機大手は大幅増の見通し≫
2015年春闘は大詰めを迎え、ベアに相当する賃金改善については、自動車大手や電機大手で前年を大きく上回る妥結額になる見通しだ。自動車関連企業の労働組合でつくる自動車総連の相原康伸会長は14日の記者会見で「(大手)メーカー労組を中心に前進ある交渉が進んでいる」と述べ、18日の集中回答日に向け粘り強く交渉することを確認した。
今春闘で自動車大手の労組は6000円のベアを要求。これを受け、トヨタ自動車が4000円を軸に調整しているほか、日産自動車が4000円以上、富士重工業も3000円前後と昨年を上回る回答を行う方向だ。一時金も満額回答が相次ぐ見込みだ。
一方、電機大手は3000円のベアで決着する見通し。14日には、大手6社の労務担当役員と各労組が加盟する電機連合による交渉が開かれ、労組側が経営側に誠意ある回答を求めた。
6社のうち、日立製作所など5社はベア3000円の回答で最終調整しているが、富士通は2500円のベアと500円分の諸手当を合わせ、賃金改善の総額で3000円としたい考えだ。14日の交渉後、電機連合の有野正治中央執行委員長は、「労使の溝は埋まり切っていないが、一致点を見いだしたい」と述べた。(SANKEI EXPRESS)