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イエメンで自爆テロ 142人死亡 「イスラム国」拡散 宗派対立激化も

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イエメンで自爆テロ 142人死亡 「イスラム国」拡散 宗派対立激化も

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自爆テロがあった首都サヌアのモスク内部を調べる人たち=2015年3月20日、イエメン(ゲッティ=共同)  イエメンの首都サヌアにあるイスラム教シーア派のモスク(礼拝所)2カ所で20日、自爆テロが相次ぎ、少なくとも142人が死亡、約350人が負傷した。事件後、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」系の組織が犯行声明を発表した。イエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカーイダ(AQAP)」に加えてイスラム国系組織の活動が確認されれば、宗派間の対立激化につながる恐れもある。

 イスラム国サヌア支部を名乗るグループは20日、音声の声明をネット上に公開、「不信仰者を根絶やしにするまで(攻撃の手を)休めることはない」とさらなる犯行を予告した。

 標的となったのはサヌア南部と北部にあるモスクで、シーア派の一派であるザイド派の戦闘員や支持者が金曜礼拝のために多数集まっていた。シーア派を異端視するスンニ派武装勢力による犯行であることはほぼ間違いないが、イスラム国支部の実態は分かっておらず、犯行声明の真偽は不明だ。

 ただ、フランス公共ラジオによると、AQAPは20日、「モスクや市場を狙ってはならないという尊師ザワヒリ(容疑者)の指示に従っている」とする声明を発表し、当初疑われた犯行への関与を否定した。こうしたことから、AQAP以外にも大規模なテロを遂行する能力を持つ過激派組織が現れたとの懸念は強い。

 イエメンでは2月、サヌアを掌握してアブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領(69)を軟禁下に置いていたザイド派勢力が一方的に議会解散などを宣言し、事実上、政権を奪取。ハディ氏はその後、出身地である南部の主要都市アデンに脱出し、分裂状態に陥った。

 イスラム国サヌア支部を名乗るグループは混乱に乗じて勢力拡大を狙っている可能性が高く、テロで宗派対立をあおる恐れもある。(チュニス 大内清/SANKEI EXPRESS

 ≪「イスラム国」拡散 宗派対立激化も≫

 過激組織「イスラム国」がチュニジアの博物館襲撃テロと、イエメンの連続自爆テロで犯行声明を出した。イラクとシリアの支配地域外へ活動が拡散した印象だが、両事件とも実行犯との具体的連携は不明だ。実態を伴わず勢力拡大に向けた広報戦略が先行しているとの見方もある。各地の過激組織が資金と人集めのため、傘下に入ったとしてイスラム国を名乗っている可能性もある。

 実行犯との連携不明

 「現時点で明確な証拠はない」。アーネスト米大統領報道官は20日、両事件について、イスラム国が実際に関与したかは不明だと述べた。

 イスラム国は昨年11月、各地の過激派組織が忠誠を誓った動きを受けて、イラクとシリアに加えて、サウジアラビアやイエメン、エジプト、リビアなどで「新たな領土を獲得した」と宣言した。実際にエジプトのシナイ半島を拠点とする過激派は「イスラム国シナイ州」と改称した。チュニジア事件の翌19日には、アルジェリアの傘下組織が初の攻撃を行ったとの声明を出すなど、系列組織が増殖している。

 米政府高官は、イスラム国が抱く「世界の他地域に暴力を拡大する意志」を懸念すると同時に、運営上の連携が実在するかは分からないと指摘。むしろ、イスラム国の「感染力の高いイデオロギー」が脅威だとの認識を示す。

 高い「広報力」共通

 声明を先行させ、支配の及んでいない地域の隠れた支持者にも協力を呼び掛ける「広報力」は、国際テロ組織アルカーイダに通じる。実際には連携していないテロでも実行部隊がアルカーイダを名乗る現象は「フランチャイズ化」と呼ばれた。

 チュニジアとイエメンの事件で、イスラム国は犯行声明とともに「(事件は)最初の雨粒にすぎない」「作戦は来るべき洪水の始まりだ」などと新たなテロを警告した。だが、イエメンでは、イスラム国と緊張関係にあるアルカーイダ系武装組織「アラビア半島のアルカーイダ(AQAP)」が存在する。覇権争いも絡み、イスラム国がどこまで活動を本格化させられるかは未知数だ。

 外交筋は、イスラム国のイエメンでの支持基盤は相当脆弱(ぜいじゃく)だとして「果たしてこれほど大規模なテロが起こせるのか、今回の犯行声明の信憑(しんぴょう)性には疑問が残る」と指摘。一方で「(イスラム国による)勢力拡大が現実になれば、イエメンは混乱の極みに陥る」と強い懸念を示した。(共同/SANKEI EXPRESS

 ■イエメン アラビア半島南西部のイスラム教国。人口約2497万人(2014年推定)。19世紀から南北分断が続き1990年に統合、イエメン共和国が成立した。2011年以降の中東民主化運動「アラブの春」が波及し長期政権が倒れた。部族社会の伝統が色濃く政府の権力が及ばない地域もある。14年9月以降、イスラム教シーア派系武装組織の活動が活発化、今年1月には大統領宮殿を武力制圧するなど混乱が続いている。

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