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【佐藤優の地球を斬る】ロシアに「好意的中立」の独仏

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【佐藤優の地球を斬る】ロシアに「好意的中立」の独仏

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16時間にも及んだウクライナ和平交渉の途中で姿を見せた(左から)ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、フランスのフランソワ・オランド大統領、ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領、ドイツのアンゲラ・メルケル首相=2015年8月11日、ベラルーシ・首都ミンスク(ロイター)  ベラルーシの首都ミンスクで11日夜から12日午後まで、ウクライナ問題に関する16時間にわたる長時間会談を、ロシアのプーチン大統領、ウクライナのポロシェンコ大統領、ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領の4首脳が行った。会談結果について、露国営ラジオ「ロシアの声」は12日、こう報じた。

 ウクライナ現状維持容認

 <合意内容については、現時点ではまだ全貌は明らかにされていない。リアノーボスチ通信がつかんだ情報では、合意文書はドンバスにある砲兵隊の重機の撤退を行なうため、安全ゾーンを確定している。安全ゾーンは東西に50メートルから140キロを範囲とする。重機撤退は戦闘停止後、2日目までには開始され、14日間以内に完了されなければならない。プーチン大統領の声明によれば、停戦は2月15日に発効する。プーチン大統領は交渉を総括し、次のように語っている。

 「交渉プロセスのあらゆる困難にもかかわらず、我々は最終的には重要事項の合意に達した。

 第1に2月15日午前0時からの停戦に合意した。

 第2はポジション。これを私はあまりにも重要なことだと考えるが、これはウクライナ軍の接触するラインからの重機の撤退だ。このラインは昨年9月19日のミンスク合意でドンバスの義勇兵のために確定されている。

 あとは、長期の政治的な調整に関わる諸々の問題だ。これはいくつかの事項と関連しており、憲法改正だが、これはウクライナで行なわれなければならない。この中にはドンバス領内で暮らす人々の法的権利が考慮されていなければならない…。」

 これに続けてプーチン大統領は、ウクライナとドンバスのポジション合意を土台にし、境界線問題の解決、ドネツクおよびルガンスクの特殊な地位の履行、経済および人道的性格の複合策が必要不可欠と指摘した。プーチン大統領はこれからの時間、流血の惨事および、あらゆる側の犠牲を回避するため、冷静さを発揮し、合意の第1事項である軍部隊の撤退が文明的な方法で実施されるためにあらゆる手をつくすよう呼びかけた>

 要約すると、ウクライナにおける現状を維持するということだ。停戦合意が履行されれば、ドネツク州とルガンスク州にウクライナ中央政府の実効支配は及ばなくなる。ロシアが以前から主張していた「ウクライナの連邦化」が実現することになる。

 停戦合意にはロシア、ウクライナ、欧州安保協力機構(OSCE)、親露派の代表者が署名した。しかし、ウクライナ軍、親露派武装勢力が停戦合意を順守するという保証はない。ウクライナ危機が解決したというには、ほど遠い状態だ。

 「イスラム国」封じへ連携

 今回の停戦合意が達成されたのは、メルケル首相とオランド大統領が連携して、ウクライナ問題の沈静化を本気で考えたからだ。その理由は「イスラム国」が、ヨーロッパを標的とした本格的なテロ戦争を開始したからだ。1月7~9日にフランスで発生した「イスラム国」やイエメンのアルカーイダを支持するイスラム原理主義過激派によるテロを封じ込めるためには、ロシアとの連携が不可欠と独仏両国は考えている。しかし、米国は、ウクライナに対するてこ入れを止めず、「イスラム国」とロシアの二正面対決に進もうとしている。英仏はこのようなオバマ政権の姿勢は危険であると考えている。

 今回の停戦合意は、ロシアの「力による現状変更」を追認する内容だ。ミンスク4カ国首脳会談における独仏の立場は、ロシアに好意的な中立であったと筆者は見ている。いずれにせよ、ウクライナ問題の主要なプレーヤーが、米国からドイツに交代したことが可視化された。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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