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シンガポール初代首相 リー・クアンユー氏死去 繁栄築いた「建国の父」 専制批判も

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シンガポール初代首相 リー・クアンユー氏死去 繁栄築いた「建国の父」 専制批判も

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シンガポールで支持者に手を振る、在りし日のリー・クアンユー氏=2011年4月27日(AP)  シンガポール首相府は23日、繁栄の基礎を築いて「建国の父」と呼ばれた初代首相、リー・クアンユー(李光耀)氏が23日午前3時18分(日本時間午前4時18分)、死去したと発表した。91歳だった。重度の肺炎のため、2月5日から治療を受けていた。

 リー氏の遺体は23日、病院から旧首相官邸に移された。25日には国会議事堂に移され、市民が最後の別れを行う。国葬は29日、シンガポール国立大で行われ、各国の首脳経験者らが参列する見通し。政府は29日までを服喪の期間と決めた。

 シンガポールが英連邦自治州になった1959年に初代首相に選出。65年のマレーシアからの分離独立以来、首相を務め、90年まで通算31年にわたり政権を担い、首相引退後も上級相や顧問相として国政運営に強い影響力を維持した。

 シンガポールは、リー氏が独立前の54年に結成した人民行動党(PAP)の実質的な一党支配体制が続き、経済が発展を遂げる一方で言論の自由や政党活動が大きく制限されてきた。

 国政運営は、リー氏の長男であるリー・シェンロン首相(63)ら「第3世代」が集団指導の形で引き継いだが、繁栄の維持と国内の政治、社会改革をどう進めるかが課題。リー首相は23日、国民向けのテレビ演説で、リー氏が資源のない港湾都市に奇跡的な繁栄をもたらした功績を強調した。

 安倍晋三首相(60)は、「アジアの偉大なリーダーだったと思う。心から哀悼の意を表し、リー・シェンロン首相はじめ、ご家族の皆さま、シンガポールの国民の皆さまに弔意を表し、お悔やみを申し上げたい」と述べた。

 中曽根康弘元首相(96)は「たぐいまれなる先見性と指導力を持って世界におけるアジアの発言力を強化した」とのコメントを発表した。(シンガポール 吉村英輝/SANKEI EXPRESS

 ≪繁栄築いた「建国の父」 専制批判も≫

 シンガポールの繁栄を築いたリー・クアンユー氏が死去した。権威支配の下にエリートの頭脳を集めることで、マレー半島南端の貿易港をアジアの金融センターに変えた政治スタイルは、「専制国家」との批判にたじろがない哲学に貫かれていた。

 日本の投資や技術誘致

 リー氏の首相在任は英領自治州時代を含め31年におよぶが、追放同然で実現したマレーシアからの分離独立(1965年8月)は、演説の途中で涙を流すほど、リー氏には苦しい船出だった。

 複雑な民族構成、共産勢力の脅威、皆無に等しい経済資源…。「どこから来たのかは忘れろ。今日から誰もがシンガポーリアンだ」という独立初期の訴えは、国民統合と経済建設に踏み出す号令であり、今も生きるこの国の理念だ。

 戦前から東南アジア華僑の中心地だったシンガポールでは、「昭南島」と呼ばれた大戦中の統治をめぐり対日批判が根強かった。リー氏は戦時下の華僑弾圧をめぐる対日交渉を素早く処理し、日本の投資や技術移転を積極的に誘致することで工業化の追い風とした。

 中国語の文化や教育を抑え、実質的に英語中心の社会に移行したことは、華人層の不満をよそにシンガポールを世界経済に組み込む基盤となった。歴史問題は日本との経済提携を妨げる要因とならなかった。

 他方、リー氏は台湾の蒋経国元総統、中国の●(=登におおざと)小平(とう・しょうへい)氏と親交を結ぶなど、中台両岸に影響を持つ華人政治家という地位も占めた。

 エリート支配を正当化

 ただ、言論や結社の自由など国民の政治、社会的な諸権利を抑え、監視により国家の安定を維持した側面は否定できない。与党・人民行動党(PAP)に有利な選挙制度の下、従順な国民には住宅供給や年金制度などの「アメ」が豊富に与えられる一方で、体制批判に走ればさまざまな「ムチ」が待ち受けていた。

 開発独裁をめぐる批判が欧米で高まるなか、リー氏が傾倒した「アジア的価値観」は、家父長的な指導者に強権を認めるものとして、人民行動党の長期政権や、エリート支配を正当化する言い訳となった。

 こうした晩年のリー氏は、同年配である台湾の李登輝元総統(92)と比較された。「文明の衝突」で知られ、ハーバード大学教授を務めたサミュエル・ハンティントン氏は、自由、民主など「世界的価値観」を重視した李氏を引き合いにリー氏を論じ、「李氏が取り入れた自由と創造性は李氏の後も続く。リー氏のもたらした正直さと効率はリー氏とともに墓場へ行きそうだ」と批評した。

 一代でシンガポールの繁栄を築いた東南アジアの巨星は去った。リー氏なきシンガポールが、経済繁栄と政治改革の岐路に立つことは、避けようのない現実である。(山本秀也/SANKEI EXPRESS

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