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2万円で持ち去り バンクシー返せ! 価値1億円超 ガザ「扉絵」めぐり大騒動
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持ち去られた後にはドアの枠だけが残された=2015年4月1日、イスラエル・パレスチナ自治区ガザ(ロイター) 世界各地に神出鬼没に現れ、壁や路上に社会風刺的な作品を描く覆面ストリートアーティスト、バンクシーが、パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍の空爆によって破壊された家のドアに描き残した作品をめぐり、騒動が巻き起こっている。買い取りを持ちかけられた家の住人が、バンクシーの作品とは知らずに現地通貨の700シェケル(約175ドル=約2万円)で売却。その後、100万ドル(約1億2000万円)以上の価値があるかもしれないと知り、欧米メディアに「だまされた」と訴えている。買い主はだましたことを認めながらも、返却するつもりはないという。芸術性や込められたメッセージとは関係なく、作品が高値で取引される現状にバンクシーの心中は…。
この作品は、ロンドンを拠点に活動するバンクシーが今年2月にガザに出没して描いた3つの作品のうちの1つ。ロイター通信や英BBC放送などによると、パレスチナ人男性のラベア・ダードゥナさん(33)は、昨夏の空爆で2階建ての自宅が破壊され、玄関の金属製のドアだけが残された。バンクシーは、このドアにギリシャ神話に登場する女性ニオベが嘆く姿をスプレーで描いた。作品はネットで公開され、ガザに出没したことを世界に発信した。
しかし、そんなことは知らなかったというダードゥナさんのところに、『ビラル・ハレド』と名乗る男が電話をかけてきた。男は「われわれは7つのドアに作品を描いた。あなたのドア以外の6つのドアはそれぞれ500シェケルで買い取った」と告げ、ドアの売却を求めた。
ダードゥナさんは一度は断ったが、金に困っていたこともあり、700シェケルで手を打った。男は自らやってきてドアを外して持ち去ったという。
その後、地元住民からバンクシーの作品だと教えられたダードゥナさんはとても落ち込み、ロイター通信に「バンクシーが誰かも、作品の価値も何も知らなかった。だまされた。これは詐欺だ。ドアはわが家のもので返却されるべきだ」と訴えた。さらにAFP通信には、「作品を展示して、世界中に私たちの苦しみを知ってもらいたい」と語り、金銭目的ではないと主張した。
一方、買い主の男は、自らも地元住民であると名乗り出てメディアに登場。ロイター通信に、「私も街角に作品を描く芸術家で、彼の作品を所有するのが夢だった」と説明。でたらめな作り話で、作品をタダ同然でだまし取ったことを認めた。ただ、AP通信には、購入目的について、「作品を保護するため」と説明したうえで、「戦争の悲惨さを世界に知らしめるため、ガザの美術館に展示するようバンクシー側の代表者に連絡している」と主張。こちらも「金銭的な見返りはない」と弁明した。
もっとも、バンクシーの作品の価値はうなぎ上りだ。壁ごとはぎ取られた作品は通常、50万ドル以上で取引され、2013年にロンドンで競売にかけられた壁画には、110万ドルの値が付いた。05年にはイスラエルで壁に9作品を描いたが、以来、一帯は観光名所となり、バンクシー・グッズが土産物店で売られるなど経済波及効果も大きい。
こうした風潮は、作品を通じて、民衆に社会風刺や政治批判を促すゲリラ的反体制芸術活動を掲げるバンクシーにはもちろん不本意に違いない。パレスチナのベツレヘムの難民キャンプに住む芸術家、アイド・アラファ氏はBBCにこう嘆いた。
「バンクシーが描くものならたとえ点でも壁ごと持ち去られ、売り飛ばされるだろう」(SANKEI EXPRESS)