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若き才能 従来の技術超えた描法も 「VOCA展2015」
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小野耕石(おの・こうせき)「Hundred_Layers_of_Colors」。油性インク、紙[245cm×390cm_※75cm×90cmの作品が12点](提供写真)
絵画や写真など「平面」の領域で、将来性のあるアーティストを支援するのを目的にした美術展「VOCA(ヴォーカ)展2015」が、上野の森美術館(東京都台東区上野公園)で開かれている。時代の潮流を敏感に反映した若手34人が、個性あふれる新作を出品している。
最高賞にあたるVOCA賞には、小野耕石さん(35)=埼玉県三郷市=のシルクスクリーン作品「Hundred Layers of Colors」が選ばれた。
写真では分かりづらいが、100回ほど塗り重ねられたインクが柱のように盛り上がり、色彩が何層にも重なっているために、見る角度で色が微妙に変化する。従来の技術を超えた描法が高く評価された。版画の作品がVOCA賞を受賞するのも初めてだ。
作品のヒントになったのが、夏の夕暮れにアトリエに飛んでくる蛾(が)だったという。小野さんは1年前の展覧会に向けての文章の中で、「あのパステル調の鱗粉(りんぷん)の美しさは絵にも描けない狂気に似た魅力があった。(中略)絵具でこの触覚的な感覚にまでたどりつけないか」と書いている。
VOCA奨励賞の2点も面白い。水野里奈さん(25)=名古屋市=の油彩画「みてもみきれない。」は、細密画のような描き込みがあると思えば、うねるようなストロークが画面にあふれる。色彩やイメージ、盛り込まれたモチーフの豊かさは、題名通り「みきれない」。水野さんは「本人でさえ驚くような作品であれば観者にはさらなる驚きが生まれる」と意欲的だ。
岸幸太さん(36)=千葉県八千代市=の「BLURRED SELF-PORTRAIT」は、1871年、パリコミューンを樹立した労働者を写した歴史的な写真をベースにしている。そこに自分の姿を重ね合わせることで、140年前の労働者たちとの共感を、時空を超えた形で表現した。
ほかに賞は、佳作として、廃墟ともいえる円筒形の塔をモノトーンで描いた松岡学さん(26)=東京都立川市=の「光の塔」、日常の中に突然現れた青い獅子を描いた松平莉奈さん(25)=大阪市=の「青」の2点。特別賞にあたる「大原美術館賞」には、2011年3月の東日本大震災によって事故が起きた福島第1原発近くに埋めたフィルムを使った川久保ジョイさん(35)=東京都文京区=の「千の太陽の光が一時に天空に輝きを放ったならば」が選ばれた。
22年目となるVOCA賞(選考委員長・高階秀爾大原美術館長)は、美術館学芸員や大学教授ら全国の美術関係者から推薦された40歳以下の三十数人の新作から選ばれている。
受賞者から福田美蘭、やなぎみわ、蜷川実花(大原美術館賞)ら有名アーティストが輩出しているほか、受賞はしなかったが、現在活躍中のアーティストたちが出品した経緯もある。
坂元暁美学芸員は「VOCA展が登竜門になりつつある。出品作も、時代の潮流を鋭敏に感じ取ったものが多い」と話した。(原圭介/SANKEI EXPRESS)
■「VOCA展2015 現代美術の展望-新しい平面の作家たち」 3月30日まで、上野の森美術館(東京都台東区上野公園1の2)。一般・大学生500円。会期中無休。(電)03・3833・4191。