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【米中外相会談】南シナ海埋め立てで激しい応酬 強硬・中国、米と偶発的衝突のリスク

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【米中外相会談】南シナ海埋め立てで激しい応酬 強硬・中国、米と偶発的衝突のリスク

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会談後の共同記者会見でも応酬を繰り広げた米国のジョン・ケリー国務長官(左)と中国の王毅外相=2015年5月16日、中国・首都北京市(ロイター)  ジョン・ケリー米国務長官(71)は16日、中国を訪問し、北京で王毅外相(61)と会談した。会談後の共同記者会見で、中国が周辺国と領有権を争う南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島などで進める岩礁埋め立てへの懸念を表明し、「緊張緩和に向けた措置」を求めたのに対し、王氏は「主権を断固として守る」として埋め立てを正当化。議論は平行線に終わった。

 南シナ海で緊張が高まって以降、複数の米政府高官が岩礁埋め立てに懸念を示してきたが、ケリー氏は今回中国側に緊張緩和措置を直接要求し、圧力を強めた。9月に習近平国家主席の訪米を控える中国も米側の意向を重視するとみられ、対立の深刻化を避けたい中国がどのような対応を取るかが次の焦点となる。

 ケリー氏は埋め立ての「速度と規模を懸念している」と指摘し工事が急速に進んでいることを問題視した。王氏は「平和的手段を通じて協議による解決を目指すことに変わりない」と主張した。

 ケリー氏は中国が設立を主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)にも言及し「高い基準で融資をするなら米国は歓迎する」と述べ、王氏は「AIIBは域外にも開かれている」と応じた。

 北朝鮮問題では非核化に向けた協力で一致。戦後70年に絡めて王氏は「反ファシズム戦争勝利の成果を守るという共通利益がある」として米国と協調していく方針を表明し、日本を牽制(けんせい)した。

 ケリー氏は16日、李克強首相、楊潔●(=簾の广を厂に、兼を虎に、よう・けつち)国務委員ともそれぞれ会談。17日には習氏とも会い、懸念を直接伝える意向だ。6月下旬に米首都ワシントンで開く「米中戦略・経済対話」や習氏の訪米に向けた調整も進める。(共同/SANKEI EXPRESS

 ≪強硬・中国 米と偶発的衝突のリスク≫

 ケリー米国務長官と中国の王毅外相は、中国による南シナ海のスプラトリー諸島などの埋め立てをめぐり、互いの主張を激しくぶつけ合った。現状変更の動きに艦艇派遣の構えも見せる米国に対し、「海洋強国の建設」に邁進(まいしん)する中国。アジア太平洋の海洋秩序を争う二大国は一歩も譲らず、緊張緩和の兆しは見えない。

 米軍艦艇派遣も

 「懸念をはっきり伝えた」(ケリー氏)。「中国の意思は岩のように固い」(王氏)。約1時間遅れで始まった共同記者会見。2人の発言は全く交わらず、会談での厳しいやりとりをうかがわせた。

 米政府は中国が埋め立てた面積は昨年末から4倍の約8平方キロに拡大したと分析。急ピッチで戦略的な拠点を囲む「砂の万里の長城」(米軍高官)が築かれていると危機感を募らせる。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルは、スプラトリー諸島の人工島上空に海軍の哨戒機を飛行させたり、中国が領海と主張する12カイリ(約22キロ)の海域に艦艇を派遣したりする案を米国防総省が視野に入れていると報道。人工島を中国の領土とは認めないと明確にする狙いだ。

 だが、実際に艦艇などを派遣すれば、偶発的な衝突のリスクが高まるのは必至。ホワイトハウスには正式に提案されていないとされるが、強硬策に目を向けざるを得ないほど中国の振る舞いに神経をとがらせている。

 アジアから「排除」

 2012年の発足直後から「海洋強国の建設」を国策と位置付ける中国の習近平指導部は、海洋権益に関して一切妥協しない姿勢を貫いてきた。

 14年5~7月にはベトナムと領有権を争う南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島付近で石油掘削作業を実施。同じ年の8月、スプラトリー諸島での埋め立て凍結を呼び掛けたフィリピンを完全に無視した。同じ月内に中国軍の戦闘機が米軍の対潜哨戒機P8に「約6メートル」まで異常接近。「九段線」と呼ばれる独自境界線を設定しており「外国の軍艦や軍用機が領海や領空に好き勝手に入ることを許さない」(中国外務省)と反発する。

 習指導部の狙いはアジアからの米国排除だ。習氏は14年5月、「アジア人民はアジアに平和と安定をもたらす能力と知恵がある」と発言。アジア重視戦略を掲げるオバマ政権に対抗して、中国主導の新たなアジアの安全保障秩序構築を目指す。

 現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」やAIIB創設とも関連し、重要拠点の南シナ海の支配確立を進める。

 比「鼻が腫れる」

 中国と向き合うフィリピン。デルロサリオ外相は12日、ワシントンで「南シナ海をめぐる争いは今や、最重要課題だ」と危機感を訴え、米国のより積極的な関与を訴えた。頼みの綱は、1951年に調印した相互防衛条約に基づく米国との同盟関係という後ろ盾だ。

 フィリピン海軍が保有する最大の艦船は、米沿岸警備隊から譲渡された3000トン級のフリゲート艦2隻。アキノ大統領もボクシングの試合に例えて「(闘えば)われわれの鼻はすぐに腫れ上がってしまうだろう」と、中国と軍事的に張り合うのは現実的でないと認める。

 フィリピンが狙うのは、南シナ海問題が単なる2国間の領有権争いではなく「海上交通の自由」が脅かされる事態だとの国際世論が高まることだ。だが、現実に進む埋め立て作業に、外務省当局者は「止める手段がない」と無力感を打ち明けた。(共同/SANKEI EXPRESS

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