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【アメリカを読む】首相訪米の隠れた主題は中国
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ホワイトハウスでの共同記者会見を終え、握手する安倍晋三(しんぞう)首相(左)とバラク・オバマ米大統領。両首脳が「希望の同盟」の絆を確認した意義は限りなく大きい=2015年4月28日、米国・首都ワシントン(AP) 安倍晋三首相(60)の米首都ワシントン訪問、これに先立つニューヨークでの外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を通し、隠れた主題は中国だった。東・南シナ海で傍若無人な振る舞いを続ける中国に一致して立ち向かうため、「歴史」を未来につなげ、首相が名付けた「希望の同盟」の絆を確認したことの意義は、限りなく大きい。
日本の首相として初めての上下両院合同会議での演説が行われた下院本会議場で、2人だけが異質な空気を醸し出していた。
2007年、下院での慰安婦問題に関する日本非難決議を主導した民主党のマイク・ホンダ下院議員(73)と、傍聴席にいた「元慰安婦」の韓国人女性、李容洙(イ・ヨンス)さん(86)だ。ホンダ氏は演説原稿を一行一行確かめ、李さんは演壇の首相を凝視して演説に耳を傾けた。
「紛争下、常に傷ついたのは、女性でした。わたしたちの時代にこそ、女性の人権が侵されない世の中を実現しなくてはいけません」
首相は演説でこう訴えた。ナイジェリアのイスラム過激派ボコ・ハラムや、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」が繰り返す女性の拉致は注目を集めている。議場ではスタンディングオベーションが起きた。
だが、ホンダ氏は議席から立ち上がったものの何やらブツブツとつぶやき、同僚議員から声をかけられて首をかしげた。ホンダ氏に招かれて傍聴席にいた李さんは演説の間、一貫して身じろぎもしなかった。
07年、下院での慰安婦問題に関する日本非難決議を主導したホンダ氏は演説終了後、首相が直接的に慰安婦問題に言及しなかったことを挙げて、「首相が慰安婦に対する旧日本軍の組織的な残虐行為の責任から逃れ続けようとしているのは衝撃的で恥ずべきことだ」とコメントした。
だが、こうした反応は議員らの反応を見る限り、「少数派」の意見といえる。
ジョー・バイデン副大統領(72)は産経新聞などの取材に「首相は日本側の責任を明確にした」と明言。ウォルター・モンデール元駐日米大使(87)も、首相が日米首脳会談後の共同記者会見で慰安婦問題に関する河野洋平官房長官談話を継承するとしたことを挙げて、「謝罪した」との認識を示した。
在米韓国大使館がPR会社と契約し、ロビー・PR活動費を拠出。韓国系や反日中国系の団体が慰安婦問題で首相を批判する全面広告を米紙ワシントン・ポストに掲載しても「反日」の機運は盛り上がらない。
16年の次期大統領選に出馬を表明したマルコ・ルビオ上院議員(43)は上院外交委員会アジア太平洋小委員会の筆頭理事として北東アジア情勢に強い関心を持っているが、首相の演説に先立ち、ロサンゼルスで日韓関係に触れた発言は示唆に富む。
「(歴史問題は)重大な地政学上の影響を持つ。中国は、日韓が協力することを妨げるため、両国間の分裂を食い物にしてきたからだ」
ルビオ氏が、こうした事態を防ぐために首相の演説で日韓の歴史問題に触れるよう提案したことには同意しかねる。ただ、日韓、もしくは日米と韓国の間に楔(くさび)を打ち込もうとする中国の動きに警鐘を鳴らしたことは素直に評価していい。
日米関係筋は「英国、韓国などが中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を決め、同盟国に裏切られた形となったバラク・オバマ米大統領に、日米同盟における日本の役割強化を約束したことは非常に重要だ」と語る。
AIIBに加え、南シナ海での岩礁埋め立てや滑走路の建設、サイバー攻撃といった中国からの挑発行動に、米政府は手を焼いている。韓国が中国の顔色をうかがっていることもあり、アジア太平洋地域での同盟国・日本の役割に対する米国の期待は強まっている。
「日米防衛協力の指針(ガイドライン)の改定によって、海洋安全保障から災害対応までより柔軟に協力することができる。日本はアジア太平洋や世界で、より大きな役割、責任を果たすことになる」
オバマ氏は4月28日、首相との首脳会談を終えた後、共同記者会見でこう述べた。
首相は訪米で、集団的自衛権の行使を含む安全保障法制を今夏に成立させる決意を表明したが、現行憲法に基づく神学論争のような安全保障論議は、日本国内でしか通用しない。(ワシントン支局 加納宏幸/SANKEI EXPRESS)