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共和党強硬派、クルーズ氏が投じた一石
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2016年の米大統領選へ最初に名乗りを上げた共和党のテッド・クルーズ上院議員(44)=テキサス州選出=のもくろみはひとまず当たった。「宗教保守」の支持を受ける他の有力候補から輝きを奪ったという意味においてだ。もちろん、本命になれるかどうかはこれからの戦い方に左右されるが、クルーズ氏を保守系草の根運動「ティーパーティー」(茶会)の支持を受ける強硬派として単純に切り捨ててしまうと、共和党の指名争いの構図が見えなくなる。
クルーズ氏が3月23日に出馬を表明したのは南部バージニア州のリバティー大学。聖書の言葉に忠実で、保守的な教義を持つ福音派のテレビ伝道師、ジェリー・ファルウェル氏が1971年に設立した。2007年に死亡したファルウェル氏はブッシュ前政権にも影響力を持った。
「ボーン・アゲイン(生まれ変わり)のキリスト教徒の約半数が投票していない。想像してほしい。信仰を持つ数百万の人々が家にいる代わりに投票所に赴き、私たちの価値観に投票することを」。クルーズ氏は演説でこう訴えた。
キリスト教の信仰による「生まれ変わり」の体験は、福音派を特徴付ける。クルーズ氏は敬虔(けいけん)なキリスト教徒が多いリバティー大学の学生たちに、キューバ移民である父が信仰に目覚め、一度は捨てた家族の元に戻った体験を語りかけた。
クルーズ氏は、十字架にかけられて死んだイエス・キリストの復活を祝うイースター(復活祭)=今年は4月4日=に合わせ、大統領選に向けたテレビCMの放映を始めた。そこでも「イエス・キリストの愛がなければ、私は父がいない家庭で、シングルマザーによって育てられることになっていたでしょう」と述べている。
共和党の大統領候補指名争いで、信仰を前面に訴えていくことを明確にした形だ。
12年の上院選で当選したクルーズ氏が知名度を上げることになったのは、13年9月の予算審議で、オバマケア(医療保険制度改革)に反対するために行ったフィリバスター(議事妨害)だ。21時間以上にわたって本会議場で演説し、政府機関閉鎖の立役者の一人となった。
クルーズ氏ら茶会系の非妥協的な姿勢は、共和党に対する世論の反発も招いた。クルーズ氏の名前を挙げると、熱心な共和党支持者でさえ、眉をひそめて薄ら笑いを浮かべるほどだ。上下両院で過半数を握り、次期大統領選をにらんで「政権担当能力」を見せなければならない議会指導者にとっては、やっかいな存在だった。
しかし、いち早く出馬表明したこともあり、泡沫(ほうまつ)候補のような扱いはされなくなった。政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」がまとめた世論調査結果では、4月上旬の時点でジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(62)、スコット・ウォーカー・ウィスコンシン州知事(47)がともに16%の支持で先行している構図は変わらないが、クルーズ氏は4%台から8%台に伸ばした。
共和党穏健派にとっての「鼻つまみ者」が、上位グループに駆け上った。
その一方で元脳神経外科医のベン・カーソン氏(63)、マイク・ハッカビー元アーカンソー州知事(59)の2人は支持を奪われ、支持率でクルーズ氏と肩を並べた。ここにクルーズ氏の狙いがあった。
セブンスデー・アドベンチスト教団の聖職者を父に持つカーソン氏、バプテスト教会の牧師という経歴を持つハッカビー氏は、いずれも宗教保守からの安定した支持を得てきた。
クルーズ氏はまず、両氏の牙城を切り崩すことから16年大統領選への長い戦いを始めようとしたのだ。それが出馬表明やCMでキリスト教の価値を強調していることの理由だ。
08年大統領選の緒戦、08年1月のアイオワ州党員集会でハッカビー氏が宗教保守の支持で勝利したことは語り草になっている。米メディアによると、共和党員の約4割が自らを「ボーン・アゲイン」もしくは福音派であるとしており、宗教保守の動向が共和党の予備選・党員集会を左右することは間違いない。
4月には共和党の有力候補たちの出馬表明が続く。茶会系から不評な穏健派、ブッシュ氏も宗教保守を意識せざるを得ない。クルーズ氏の打った先手は、強硬か穏健かの路線対立が残る共和党の行方を左右することになる。(ワシントン支局 加納宏幸(かのう・ひろゆき)/SANKEI EXPRESS)