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【アメリカを読む】オバマ氏に欠如 「新冷戦」の現状認識
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ウクライナ情勢をめぐるロシアへの対応について、欧州連合(EU)のドナルド・トゥスク大統領(左)と会談するバラク・オバマ米大統領。同盟関係にきしみが生じる中、米国に同盟立て直しの意思はあるのか=2015年3月9日、米国・首都ワシントン(ロイター) ロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合から1年がたち、米国ではロシアのウラジーミル・プーチン大統領(62)の振る舞いを東西冷戦下での旧ソ連の行動様式に重ね合わせる見方が広がっている。バラク・オバマ米大統領(53)が「戦略的忍耐」を続けている間に、欧州などで同盟関係にきしみが生じている。
これは「新冷戦」なのでしょうか? 米シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」のロシア研究部長、レオン・アーロン氏へのインタビューでこんな疑問をぶつけたところ、「イエス・アンド・ノー」という答えが帰ってきた。
ノーの理由は?
「ロシアの歴史的な使命を賛美するような新たな思想をプーチン氏が創造しようとしているのは明らかだが、旧ソ連が持っていた『資本主義と共産主義のどちらかが勝たなければならない』というような思想体系になるようなものではない」
イエスの理由は?
「プーチン氏が権力の座にある限り、西側との対立を求め続けることだ。世界、少なくとも欧州の政治地図を変えようとする(ロシアの)力に直面し、封じ込めようとしているという意味で、われわれが冷戦で立ち向かったものとの類似点がある」
ただ、オバマ氏は、この1年のクリミア併合、ウクライナ東部でのマレーシア航空機撃墜、ロシアによる親ロシア派武装勢力の支援による情勢悪化を経ても、「これは新たな冷戦ではない」と繰り返している。
確かに、制裁によりロシアは経済的に孤立の度を強めており、西側と東側の陣営に分かれた冷戦の構図とは異なる。だが、ことさらに新冷戦を否定することで、ロシアの領土的野心を過小評価する危険性がある。
ロシアはこのところ、冷戦期に時計の針を戻したような軍事的な動きを見せている。
ロシア通信は、クリミア半島に核兵器搭載が可能な10機の戦略爆撃機が配備されると報道。ロシアはベトナム中部カムラン湾の基地を給油拠点にアジア太平洋地域でも戦略爆撃機の活動を活発化させ、米西海岸でも米国を挑発する動きを見せている。
プーチン氏は15日に放送された番組の中で、クリミア併合を振り返り、核兵器を臨戦態勢に置くための「準備ができていた」と発言した。核戦力をちらつかせるプーチン氏の発言に対し、米国務省のジェン・サキ報道官(36)は「ロシア軍のクリミア介入だけでなく、より攻撃的な行動を準備していたことを世界に知らしめた」と警戒心を露わにした。
米国では、新たな冷戦かどうかをめぐり専門家の間でも意見が分かれれていた。しかし、ロシアの軍事的な動きによって、プーチン氏がウクライナへの介入にとどまらず、アーロン氏がいうように西側との対立を強めている点で「新冷戦」に入ったとの合意ができつつある。
「ロシア語を話す分離主義者が、バルト3国のどこかの領土を掌握したとして、北大西洋条約機構(NATO)はロシアを攻撃するだろうか。そのような事態について、もっと議論しておく必要がある」
米紙ワシントン・ポストのコラムニスト、デイビッド・イグナティウス氏は18日の紙面でこのように問題提起した。ウクライナはNATO未加盟だが、加盟国であるバルト3国でもクリミア半島併合のように親ロシア派武装勢力を支援する名目でロシアが介入する危険性があるとして、警鐘を鳴らしたのだ。
オバマ氏は繰り返し、NATO加盟国の集団的自衛権行使を規定した北大西洋条約5条を挙げ、加盟国が武力攻撃を受けた場合には必要な行動を取ると強調している。
しかし、米国は欧州の米軍基地を削減する計画を進め、欧州諸国も財政再建のためNATOが基準とする国内総生産(GDP)の2%という国防費を達成するのが難しくなっている。
最近、訪米した谷内正太郎(やち・しょうたろう)国家安全保障局長(71)はスーザン・ライス米大統領補佐官(50)=国家安全保障問題担当=から、ウクライナ問題で先進7カ国(G7)の結束を求められた。日米関係筋によると、クリミア併合以来、米政府高官はロシアに関する日本の認識を尋ね、日露接近にクギを刺すのが定番になっている。
クリミアの悲劇を繰り返さないためにはまず、米国が新冷戦の現実を認めることが必要だ。それがなければ、ロシアや中国に立ち向かうための同盟関係の立て直しは難しい。(ワシントン支局 加納宏幸(かのう・ひろゆき)/SANKEI EXPRESS)