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【アメリカを読む】揺れるクリントン氏 「右」「左」どちらへ?

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【アメリカを読む】揺れるクリントン氏 「右」「左」どちらへ?

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地方遊説を始めたヒラリー・クリントン前国務長官(中央)は4月14日、全米で最初に党員集会が行われ、大統領選の行方を占う重要な州と位置づけられる中西部オハイオ州を訪れ、街のカフェで地元住民らと会話を交わした。親しみやすさのアピールに懸命だ=2015年(AP)  「恥を知りなさい、バラク・オバマ!」。2008年2月、米大統領選での民主党候補としての指名獲得を争う予備選・党員集会でオバマ米大統領(53)に劣勢に立たされていたヒラリー・クリントン前国務長官(67)は、政策批判のために作られたオバマ陣営の冊子を手に、猛烈に怒りを爆発させた。クリントン氏が12日、16年大統領選への出馬を正式に表明した後、米メディアが当時のこの映像を繰り返し流しているのは、クリントン氏がオバマ路線を継承するかに注目が集まっているせいだろう。

 TPP推進の看板に変化

 米議会の超党派議員はこのほど、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の早期合意に必要な大統領貿易権限(TPA)法案を提出した。中国が影響力を拡大するアジアで、米国の足場を築いておきたいオバマ氏が早期成立を求めていた。これに対するクリントン陣営の反応は意外なものだった。

 「クリントン氏は新たな貿易措置は2つのテストを通る必要があると考えている。1つ目は米国の労働者を守り、賃金を上昇させ、国内でより多くの良質な雇用を創出すること。2つ目は米国の国家安全保障を強めること」

 TPA法案の提出を受け、クリントン陣営はこんな声明を発表した。米紙ニューヨーク・タイムズが伝えた。2つのテストを通らないと判断されれば交渉から離れることも提案。反対しているわけではないが、これまでのTPP推進論とは、微妙に立ち位置を変えている。

 クリントン氏は昨年出版した回顧録「困難な選択」で、TPPを「アジアにおける米国の立場を強める戦略的な構想」と絶賛しており、米国の企業や労働者の利益につながるとも強調している。

 今回、いささか歯切れの悪い声明を出したのは、TPPによって途上国に雇用機会を奪われることを懸念する労働組合、大企業を優遇する措置を嫌う草の根の民主党支持層に配慮したためとみられている。

 「オバマ3期目」感の払拭

 08年の大統領選で、オバマ氏の陣営は共和党候補のジョン・マケイン上院議員(78)に「ジョージ・W・ブッシュ大統領の3期目」というレッテルを貼る作戦に出た。ブッシュ氏が始めたアフガニスタン、イラクの「2つの戦争」で米社会にあった厭戦ムードに訴えかけるためだ。

 オバマ政権への支持率が低迷する中、共和党候補の各陣営は08年にオバマ氏が取った戦略を仕掛けようとしている。16年大統領選に向けてクリントン氏が「第3期オバマ政権」を作ろうとしていると強調し、オバマ氏のマイナスイメージを背負い込ませようというのだ。

 憲法修正第22条で大統領任期が2期に制限された1951年以降、同じ党が3期12年間、続けて政権を担ったのは、人気のあった共和党のロナルド・レーガン元大統領(1911~2004年)に続いて副大統領だったジョージ・H・W・ブッシュ氏(90)が大統領に就いた1回だけ。前任者の「負の遺産」を乗り越えて当選することは難しいようだ。

 クリントン氏は出馬表明で、オバマ氏と重視する中間層に寄り添う姿勢を明確にしたが、適度な距離を保たなければ、共和党からのネガティブキャンペーンの餌食になりかねない。

 臆測を呼ぶロゴの矢印

 オバマ政権下では、民主党支持層がリベラル色を、共和党支持層が保守色をそれぞれ強める二極分化が進んだことが米国内の世論調査で分かっている。リベラル勢力の同性婚容認、保守勢力の銃規制反対といった両極の主張に付いていけない層が増えていることも特徴だ。

 こうした「無党派層」をどう取り込むかは各陣営が頭を悩ませている課題といえる。

 ちなみに、ワシントンではクリントン氏が「右寄りになるのではないか」とささやかれている。その理由は陣営の「ヒラリー・フォー・アメリカ」のロゴマークにある。ヒラリーのイニシャル「H」の横棒が、右向きの矢印になっているためだ。

 もちろん、これは臆測の類いだ。ただ、クリントン氏は現在のところ大統領に最も近い位置にいると目されているだけに、選挙活動で民主党を支持するリベラル勢力を重視する戦略を選ぶか、保守層や無党派層も巻き込もうとするかは米国の行方を左右することになる。(ワシントン支局 加納宏幸(かのう・ひろゆき)/SANKEI E XPRESS

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