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半数吹き抜け 火災施設と同構造 簡易宿泊所 川崎市が立ち入り検査

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半数吹き抜け 火災施設と同構造 簡易宿泊所 川崎市が立ち入り検査

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簡易宿泊などが立ち並ぶ東京・山谷地区。多くの高齢者や観光客が宿泊している=2015年5月19日、東京都台東区(橋本昌宗撮影)  川崎市川崎区で簡易宿泊所(簡宿)「吉田屋」(木造3階建て)など2棟が全焼した火災で、火元となった吉田屋の2、3階部分が吹き抜け構造となっていたことなどから、煙突のような空気の流れが生じて短時間で火が燃え広がった可能性が高いことが19日、神奈川県警や市消防局などへの取材で分かった。川崎市が始めた市内の同種施設への特別立ち入り検査では、この日調べた16施設の約半数が吹き抜けの3階構造だった。はしごのような急角度の階段しかない建物もあり、市は違法建築に当たるかどうか調べている。

 捜査関係者や宿泊客らによると、火元は吉田屋1階の玄関付近で、出火から20分ほどの短時間で建物全体に燃え広がったと推測される。

 吹き抜け構造になっていた吉田屋の2、3階部分が大きな煙突のような役割をし、炎や煙が1階から上階へ向かう通り道となって火が一気に広がった可能性があるという。

 市建築指導課によると、吉田屋は1960(昭和35)年に木造2階建てとして建築確認された後、87年に3階部分を増築。増築は市に無届けで行われた可能性が高く、建築基準法上は宿泊施設を3階建てとする場合、鉄筋コンクリート造りなどの耐火建築物にする必要があったが、木造のまま30年近くにわたり見逃されていた。

 消防局は2014年の立ち入り検査で3階部分の存在を把握していたが、市建築指導課には伝わっておらず、情報共有の不備が浮かび上がっている。

 川崎市はこの日、49施設に対する特別立ち入り検査を開始。初日は16施設を検査したが、このうち約半数は吉田屋と同じように2、3階部分が吹き抜けの構造だった。市は22日まで検査し、違法建築に当たるかどうか判断する。

 記者が市の立ち入り検査に同行して1施設を取材したところ、2階部分の中央通路が3階部分まで吹き抜けになっていた。3階部分は吹き抜け構造の両端に狭い通路があり、部屋の入り口が並ぶ作りになっていた。2階、3階部分の天井高はそれぞれ180センチ程度と低く、階段ははしごのように段差が急で、緊急時に移動するには危険な作りになっていた。

 ≪東京・山谷地区 対策急務も「費用的に無理」≫

 川崎市川崎区の簡易宿泊所が立ち並ぶ一角で木造2棟が全焼した火災は、全国に点在する同様の「簡宿エリア」にも、古い建物が密集した地域での防火対策という課題を突きつけた。宿泊者の多くは、かつて大半を占めた労働者から、生活保護などを受給する高齢者に変わりつつある。「日雇い労働者の街」として知られる東京の「山谷地区」でも対策は急務だが、安価な宿泊費を売りにする簡宿の経営者からは「スプリンクラーの設置は費用的に無理」との声も上がる。

 「ぜいたく言えない」

 東京都の台東、荒川両区にまたがる山谷地区。19日午後、区境にある泪橋(なみだばし)交差点から少し歩くと「1泊3000円」「全室カラーテレビ完備」などといった看板が目に飛び込んできた。平日の昼間とあって人通りはまばらだが、「満室」という張り紙も見える。

 築40年以上という宿を経営する男性によると、宿泊者の多くは生活保護やアルバイトで生計を立てる高齢者。「寝たばこには気をつけろと口を酸っぱくして言っているが、時々、畳を焦がす人もいる」という。

 初期消火にはスプリンクラーが有効とされるが、消防法が設置を義務付けているのは、延べ床面積が6000平方メートル以上の建物。男性は「今の値段を維持できなくなるので設置する気はない」と肩をすくめた。

 「川崎の火事の話を聞いたときは(山谷と)状況が似てるので怖かった」と明かすのは、地区に住んで10年というアルバイトの男性(61)。ただ、「これだけ安い値段で泊まらせてもらっているのに、あまりぜいたくを言ってはいけないと思う」と話した。

 山谷地区は戦後に戦災者や復員者などを受け入れ、日雇い労働者が利用する簡宿が数多く誕生した。1964年の東京オリンピックでの建設ラッシュを背景に、1万数千人近い日雇い労働者が集まったとされる。

 城北労働・福祉センター(台東区)によると現在、地区では157軒の簡宿に約3700人が暮らす。宿泊代金は3畳一間で平均1泊2000円ほど。約8割が生活保護受給者だという。

 平均64.7歳

 高齢化も進む。都の調査では1999年に59.7歳だった宿泊者の平均年齢は、2012年には64.7歳に。30年以上、同じ宿で暮らす高齢者もいるという。

 簡宿が加入する城北旅館組合によると、火災の原因で多いのは寝たばこと放火。組合では火災報知機の自動通報装置の設置などを進めるが「そのくらいしかできない部分もある」(上野雅宏組合長)という。

 日本最大の日雇い労働市場とされる「あいりん地区」(大阪市西成区)も事情は同じだ。65歳以上の高齢者は住人全体の約40%に当たる約8000人に上る。

 ある簡宿は築約60年で木造2階建て。廊下の両側に3畳間の居室が約20室並ぶが、スプリンクラー設置について経営者は「安い値段でギリギリでやっている。そんな費用を捻出できる余裕もない」とにべもない。

 こうした状況に、生活困窮者へ支援を行うNPO法人「山友会」の油井和徳理事(31)は「火災の責任を施設側だけに求めても、根本的な問題は解決しない。川崎市の火災は他人事ではない」と指摘。「簡宿が困窮した高齢者の受け皿になってしまうような構造に目を向け、低所得者が安全に暮らせる住まいを地域の中に整備しないと、また同じような悲劇は起こりうる」としている。(SANKEI EXPRESS

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