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1対1の約束からは簡単に逃げられない 映画「サンドラの週末」 ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督インタビュー
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インタビューに応じるジャン=ピエール(左)とリュックのダルデンヌ兄弟=2015年3月27日、東京都渋谷区(宮崎瑞穂撮影) ジャン=ピエール・ダルデンヌ(64)とリュック・ダルデンヌ(61)。ベルギーで生まれた偉大な兄弟監督だが、熱心な映画ファンでなければ覚えがないという人の方があるいは多いかもしれない。しかし2人は、お隣オランダが生んだK-1の史上最多「4タイムズ・チャンピオン」、アーネスト・ホースト(49)も顔負けのファイターなのだ。主戦場ともいえるカンヌ国際映画祭では5作品連続でタイトルを獲得、それには2度の最高賞パルムドールを含む。世界の名だたる強豪を相手に一歩も引かない“ケンカ上手”だ。
新作の人間ドラマ「サンドラの週末」では、そんなダルデンヌ兄弟がオトナの賢いケンカの仕方を指南。社会的に弱い立場の人々に常に優しいまなざしを向けてきた2人は、一個人が組織に立ち向かうとき、どうすれば勝利を収められるかを、フランス人のオスカー女優、マリオン・コティヤール(39)を主演に迎え、熱量たっぷりに語らせてみせた。
体調不良で休職中だったサンドラ(コティヤール)は復職のめどが立ったある金曜日、会社から電話で「解雇」を言い渡された。職員へのボーナスの原資を確保するために、職員1人を解雇しなければならないというのだ。すでに彼らの了承も得ているという。だが、同僚のジュリエット(カトリーヌ・サレ)のとりなしで、週明けの月曜日に16人の同僚全員による投票が実施されることになり、ボーナス支給を断念してサンドラの復職に賛成する者が多ければ、サンドラはそのまま仕事を続けることができることになる。まだ幼い2人の子供を持つサンドラは週末に同僚たちの自宅を訪ね、「賛成」に回るよう懇願するのだが…。
リュック監督は、週末のうちにサンドラを一人ずつ同僚たちの説得に当たらせた夫、マニュ(ファブリツィオ・ロンジォーネ)のアイデアが勝負の分かれ目となったと強調した。「個別に同僚たちに会っておけば、サンドラの解雇に賛成した彼らの意見も、投票ではきっと変わるかもしれません。1対1で交わした約束から人間はそう簡単には逃げられません。もし投票の際、サンドラが目の前にいたら、同僚たちは『復職賛成』へと傾く可能性が高まるでしょう。1対1での約束の不履行は人間としてあるべき道徳に根ざした問題となるからです」
作中、サンドラの訪問を受けた同僚たちが「他の人はどんな意見なのか?」と尋ねるシーンが目立つ。「仮にサンドラが週明けの月曜日に同僚全員の前で自分の雇用継続を訴えたとしても、何も効果は得られないでしょう。人間というものは、集団という状況下に置かれると、他人が下した意思決定にいとも簡単に同調してしまいがちです。『他の人がノーと言っているのだから、自分たちもノーと言っていいんだ』と、うまく責任逃れができるからです」。リュック監督は集団の意見を切り崩すうえでの心得を重ねて説いた。
抗不安薬を飲みながら降ってわいた難題に対処するサンドラの姿が痛々しい。ジャン=ピエール監督の意図はこうだ。「周囲は病み上がりのサンドラを弱くて鈍い存在と考えるでしょう。でもそんなサンドラが、周囲の考えを変えてしまうばかりか、自分に存在価値を見いだせないサンドラ自身をも変える力を持っていたのです。『サンドラの週末』が描きたかったのはその部分であり、弱さに対する礼賛なのです」。5月23日、全国で順次公開。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:宮崎真澄/SANKEI EXPRESS)
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