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しっかり触れ合えば関係は豊かになる 映画「あん」 河瀬直美監督インタビュー

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しっかり触れ合えば関係は豊かになる 映画「あん」 河瀬直美監督インタビュー

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「人と人がしっかりと触れ合うことで、大切なものが得られる」と語る河瀬直美監督=2015年5月26日、東京都港区(鴨川一也撮影)  ≪大切で普遍的な事柄 伝え続けたい≫

 史上最年少27歳でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を手にした河瀬直美監督(45)がそのレッドカーペットを歩くのは新作「あん」(ある視点部門出品)で早くも7度目。故郷、奈良県を拠点に、生きる原点に対峙(たいじ)する人間と、それを優しく包み込む日本の自然の美しさを世界に知らしめてきた河瀬監督は、いつしか「カンヌの申し子」と呼ばれるようになった。

 そんな河瀬監督が26日、明治記念館(東京都港区元赤坂)で開催された「あん」のプレミアム試写会に駆けつけ、和服姿で上映前の舞台あいさつに臨んだ。「カンヌでは(『あん』の)世界へのお披露目を全うしてきました。世界28地域、30カ国以上で販売が完了し、世界での公開に動き出したばかりです。その先駆けに皆さんにお披露目できることを光栄に思います」。高円宮妃殿下も出席される中、大勢のファンに改めて感謝の気持ちを伝えた。

 初めて原作を基に

 本作は、作家としても活躍するドリアン助川(52)の同名小説を映画化したヒューマンドラマ。樹木希林(きき・きりん、72)を主演に迎え、河瀬監督は映画の脚本も執筆した。これまでオリジナルの脚本を手がけてきた河瀬監督が初めて原作を基に映画を撮った物語でもあり、実に興味深い。

 浮かない日々を送るどら焼き屋の雇われ店長、千太郎(永瀬正敏)のもとへ徳江と名乗る老女(樹木)が“飛び込み営業”をかけてきた。「わずかな時給でも構わないから店で働かせてほしい」。熱意に押された千太郎は徳江をアルバイトに雇うと、店は大繁盛。「粒あんを作って50年」と語る徳江の腕前は相当なもので、その絶妙な味が口コミで広まったのだ。しかし、そんなある日、「かつて徳江がハンセン病を患っていた」という噂が流れ…。

 上映の最中、SANKEI EXPRESSの取材に応じた河瀬監督は、本作のテーマ「生きる意味とは何か?」を念頭に、「私の場合、『映画を作らせてもらう』という役割を得たのかなと感じています。それは日本の文化とか、ある人にとって大切で普遍的な事柄を映画という形に換えて伝えることですね」と改めて強調。「これからもどんどん映画を作っていく。そんな思いを強くしました」と、自分に言い聞かせるように決意を語った。

 特別じゃなくてもいい

 しきりに徳江のクビを促すどら焼き屋オーナーの強い圧力に苦しむ千太郎。状況を察した徳江は自ら静かに身を引き、どら焼き屋を去ってしまう。千太郎や、徳江と心を通わせていた中学生の客、ワカナ(内田伽羅(きゃら))の喪失感は計り知れないほど大きなものとなったが、同時に、生きるうえで大切なものも徳江から確かに受け取っていた。「人と人がしっかりと触れ合うことで、両者の関係は豊かになり、本当の人間関係を築くことができる」。ロケで元ハンセン病の人々が暮らす施設を訪れた河瀬監督は、徳江の気持ちを代弁してみせた。

 《この世に生を受け、さまざまな事象を見聞きできるだけでも幸せではないか。特別な何かになれなくてもいいではないか》-長年、元ハンセン病患者が生活する施設で暮らしてきた徳江は、過去の過ちに苦しみ、いつも愁いをたたえている千太郎にこんな気持ちを伝える。《誰かに評価されるためでなく、自分自身が納得できる千太郎のどら焼きを作ってほしい》とも。

 ありのままの自分を受け入れ、自他を隔てる垣根を果敢に乗り越え、豊かな人間関係を築いてきた徳江に対し、幼少期に父母と別れ、自らも早い自立を余儀なくされた河瀬監督も何かを感じ取ったに違いない。

 「人生というものは、実にいろんな壁が立ちはだかるもので、映画作りと似ています。『やってできないことはないんだ』と必死に頑張っていると、いつの間にか私を支えてくれる人たちも出てきます。高い壁を乗り越えたところにそんな人たちが待っているかもしれないと思うと、どんなことだって耐えることができますよ」。5月30日、全国公開。(高橋天地(たかくに)/SANKEI EXPRESS

 ■かわせ・なおみ 1969年5月30日、奈良県生まれ。現ビジュアルアーツ専門学校大阪・映画科を卒業後、生まれ育った奈良で映画を撮り続ける。97年「萌の朱雀」でカンヌ国際映画祭新人監督賞受賞、2007年「殯(もがり)の森」がカンヌ国際映画祭グランプリ受賞。他に監督作は、14年「2つ目の窓」(カンヌ国際映画祭でコンペティション部門出品)など。10年「玄牝(げんぴん)」などドキュメンタリー作品も多数。13年のカンヌ国際映画祭ではコンペティション部門で審査員を務めた。なら国際映画祭エグゼクティブディレクター、奄美観光大使。

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