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登録先送りの懸念 日韓駆け引き 「明治の産業革命遺産」 きょう外相会談

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登録先送りの懸念 日韓駆け引き 「明治の産業革命遺産」 きょう外相会談

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「明治日本の産業革命遺産」の対象施設の一つである通称「軍艦島」と呼ばれている端島炭坑=2015年4月25日、長崎県長崎市(共同通信社ヘリから撮影)  「明治日本の産業革命遺産」(福岡など8県)の世界遺産登録をめぐる日本と韓国の協議が大詰めを迎えている。「国民が徴用された施設が含まれる」と反対する韓国と、今年の登録を確実にしたい日本。話し合いで解決を目指す動きは続いており、21日には外相会談も開かれる。一致点を見いだせるか注目される。

 議長国は全会一致重視

 今年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会は28日から11日間、ドイツ・ボンで開かれる。新規登録の審査は日本時間の7月3~6日に行われる見通し。産業革命遺産は事前に「世界文化遺産にふさわしい」との勧告を得ており、通常なら登録が確実だ。

 だが、韓国は対象23施設のうち、強制徴用の朝鮮人労働者が働かされた7施設の登録に反対。尹炳世外相が審査に当たる委員国を歴訪し支持を訴えており、審査の行方に不安が残る。

 登録の決定は21の委員国の全会一致が原則とされる。政府内では「投票になっても韓国を支持する国は少ない」との読みが強いものの、「議長国ドイツは全会一致を重視しており、賛否が割れたままでは審議を来年以降に先送りされかねない」と懸念する声がある。

 現在、日韓はともに委員国を務めているが、日本は今年で任期が切れ、来年以降は発言力が格段に弱まる。日本側の交渉担当者には「今年が勝負」との思いがあり、徴用を含めた歴史の全体像を説明すると約束し、韓国の理解を得ようという案が浮上している。

 韓国は反対する7施設について、強制徴用に触れる形で「歴史の全容」(韓国政府高官)の説明を日本に要求。受け入れられれば反対取り下げもあると示唆する一方で、反対支持拡大へ外交攻勢をかけている。

 朴槿恵政権は、中東呼吸器症候群(MERS)の感染拡大で国内世論の批判が集中。世界遺産登録で日本に国際社会が同調する結果となれば、求心力はさらに低下する。

 「無条件には反対せず」

 朴大統領は6月、登録を審査するユネスコの世界遺産委員会の副議長国セネガルの大統領が訪韓した際、反対支持を要請。尹外相も世界遺産委の議長国ドイツ、副議長国クロアチアを訪れて協力を求めた。

 世界遺産委での合意がまとまらず、投票に持ち込まれれば、韓国が混乱の当事者と見なされるとの懸念もある。このため、日本との協議を続ける姿勢を強調し、投票先送りに持ち込むことも視野に入れているもようだ。

 韓国政府高官は、無条件には反対していないと主張。「歴史の全容」を日本が説明するなら反対をやめることもできると、日本メディアを集めた席で話した。

 中国も5月に反対を表明。戦時中の労働者の強制連行問題を「日本軍国主義の重大な犯罪行為」(中国外務省)と非難した。ただ、当初の反応は韓国よりも鈍かった。政府関係者は「積極的に他国に働き掛けてはいない。日本にも具体的な要求はない」と話す。

 強制連行問題は、日本の首相の靖国神社参拝問題などと比べて優先順位が低く、安倍晋三首相と習近平国家主席の2度目の会談が4月に実現するなど日中関係が全体として改善している中で、様子見を決め込んでいたとみられる。(共同/SANKEI EXPRESS

 ≪政府間対立の火種 戦闘で死傷者≫

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産の登録は、貴重な文化財への注目を高めるきっかけになる一方で政府間の対立の火種にもなってきた。武力衝突に発展し死傷者が出たケースも。登録の是非を決める審議が政治的な論争の舞台となることも少なくない。

 カンボジアとタイの国境にあるヒンズー教寺院遺跡「プレアビヒア」は、世界遺産登録が認められたことがきっかけとなり、帰属をめぐって両国が武力衝突した。

 オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)は1962年の判決でカンボジア領と認定し、ユネスコは2008年7月、カンボジアの申請に基づき、世界遺産への登録を決定した。タイでは「自国領土」との世論が根強く、08年10月には遺跡周辺で両国軍が交戦、11年まで散発的に戦闘が続き死傷者も出た。観光客の足は遠のいている。

 パレスチナが申請したキリスト生誕地とされるヨルダン川西岸ベツレヘムの「聖誕教会」の世界遺産登録をめぐっても、イスラエルとパレスチナが反目し合った。パレスチナ側は12年の登録承認を受け、イスラエル占領地にある教会へのパレスチナの主権が支持されたと歓迎。イスラエル側は、ユネスコが「文化的でなく政治的な目的に基づいている」と批判した。

 イスラエルが申請した北部の古代遺跡「ダンの3連アーチ門」は、ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)から08年に登録勧告を受けたのにもかかわらず、審議が先送りされる異例の展開となった。背景にはイスラエルとアラブ諸国の国境問題をめぐる意見対立があったとされている。(共同/SANKEI EXPRESS

 ■明治日本の産業革命遺産 岩手、静岡、山口と九州5県にある製鉄、造船、石炭産業施設など23の文化財で構成。政府が2014年1月に世界文化遺産に推薦を決定、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関は15年5月「西洋の技術を改良し、短期間で産業化を達成した過程を示す」と歴史的価値を評価し、登録を勧告した。

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