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政治
反日に無言の抗議 静かなる歴史戦 安倍首相、西海岸で訪米外交仕上げ
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日本の首相として初めて米議会の上下両院合同会議で演説した安倍晋三(しんぞう)首相。英語での約45分の演説中、スタンディングオベーションは14回にも上った=2015年4月29日、米国・首都ワシントン(共同) 安倍晋三首相(60)は30日午前(日本時間30日夜)、上下両院合同会議での演説など首都ワシントンでの一連の日程を終え、郊外のアンドルーズ空軍基地から次の訪問都市である米西海岸のカリフォルニア州サンフランシスコに向け、政府専用機で出発。サンフランシスコには1日まで滞在し、最後の訪問都市ロサンゼルスに移動する。
首相はサンフランシスコ滞在中、最先端のIT企業が集積するシリコンバレーを訪れるほか、西海岸で計画される高速鉄道建設をにらんで、日本の技術を売り込む方針だ。
また、カリフォルニア州は慰安婦をめぐる謝罪要求や慰安婦像設置など韓国系、中国系住民が反日攻勢を強めている米国最大の「歴史戦」の舞台だ。安倍首相はこの地に乗り込み、不当な主張を米国民に浸透させようとする一部の動きに無言で圧力をかける“静かなる歴史戦”に挑む。
首相はこれまで「歴史修正主義者」というレッテル貼りを受けてきた。オバマ政権内にもそうした見方が広がったこともあったが、韓国や中国の異様な反日攻勢が次第に米国内の不信感を買うようになり、首相への誤解も解かれつつある。
それは首相が4月29日に行った米上下両院合同会議の演説で目に見える形となった。
首相は演説で、先の大戦の硫黄島での戦いに参加したローレンス・スノーデン元米海兵隊中将(94)と旧日本軍を率いた栗林忠道(ただみち)大将(1891~1945年)の孫、新藤義孝前総務相(57)を紹介した。傍聴席の2人が握手を交わすと議員らは大きな拍手を送った。さらに首相は演説直前にワシントンの第二次世界大戦記念碑に立ち寄ったことにも言及。総立ちの拍手を受けた。
首相の約45分の演説中、議場のスタンディングオベーションは14回にのぼった。歴史を直視し、その上で未来志向の関係を重視する首相の姿勢が好意的に受け入れられたからだ。
バラク・オバマ大統領(53)もその姿勢を認めている。4月28日の首脳会談は2時間近くに達したが、両首脳が歴史認識に触れることはなかった。
「あす演説があるんだよな。期待しているよ」。大統領は首相にそう語りかけた。首相を「歴史修正主義者」とみなしていれば、そうした言葉は出てこない。
有力議員が演説を好感をもって受け止める中で、慰安婦問題の日本非難決議を主導したマイク・ホンダ下院議員(73)=民主党=は「首相が慰安婦に対する旧日本軍の組織的な残虐行為の責任から逃れ続けようとしていることは衝撃的で恥ずべきことだ」とコメントした。
ホンダ氏を選出したカリフォルニア州では、首相はフェイスブック本社などの企業訪問や財界人や日系人らとの交流を予定している。反日的な主張に反論する行事などはない。
首相は30日放映の日本テレビ番組で、演説について「ずっと『先の大戦の痛切な反省の上に今の日本の繁栄がある』と言ってきた。正しく報道されていない。新しいことを述べたのではない」と淡々と語った。ワシントンで多くの米国民を引き寄せた首相がカリフォルニア州に足跡を残し、「無言」の抗議をする-。そのとき今回の訪米外交が結実する。(ワシントン 峯匡孝/SANKEI EXPRESS)
≪中国「村山談話継承を」 韓国「おわびなしは遺憾」≫
中国外務省の洪磊(こう・らい)報道官は30日の定例記者会見で、安倍首相が米上下両院合同会議で行った演説について「中国側は一貫して、日本政府と日本の指導者に、歴史に対する責任ある態度を持ち、村山談話に含まれている侵略の歴史の直視と反省という態度を慎んで守るよう促してきた」と不満を示した。
洪報道官は、安倍首相が第二次世界大戦に対する悔悟を表明したことはまったく評価せず、過去の植民地支配や慰安婦問題への「謝罪」を口にしなかったことに反発。「(過去の談話を継承してこそ)日本は国際社会の信用を得、アジアの隣国と未来に向かった友好関係を切り開くことができる」と述べた。
韓国外務省も30日、安倍首相の演説に対して「正しい歴史認識を通じ、周辺国との真の和解と協力を成し遂げる転換点になり得たのに、そうした認識も心からのおわびもなく、非常に遺憾に思う」と批判する報道官声明を発表した。
韓国主要紙も30日、「謝罪はおろか自賛だけ…安倍の40分間の詭弁(きべん)」(東亜日報)などの見出しを掲げ、批判した。
一方、朝鮮日報は「韓国外交は新たな日米同盟時代にどう対処するのか」として、「無能、無気力」外交からの覚醒を求めた。朴槿恵(パク・ネ)政権は歴史・領土問題と経済・安全保障問題を切り離し、実利重視の現実路線を強めていくとみられる。(北京 川越一、ソウル 藤本欣也/SANKEI EXPRESS)