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【安倍政権考】北陸新幹線 福井延伸めぐり暗闘
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JR東京駅の北陸新幹線ホームにある売店に立ち寄った安倍晋三(しんぞう)首相(中)。森喜朗(よしろう)元首相(右)=2015年4月11日、東京都千代田区(代表撮影) 「今日初めて新幹線に乗って金沢まで2時間半、大変快適な旅だった。駅は活気があふれていた」。安倍晋三首相(60)は11日、3月14日に開業したばかりの北陸新幹線に乗り込み、石川、福井両県で農業や中小企業など地方創生の先進事例を視察し、一連の日程を終えた後、福井県鯖江市内で記者団に、こう感想を述べた。
北陸新幹線の視察は、統一地方選の最中に政権が最重要課題とする地方創生をアピールするほか、今月26日からの訪米を前に日本の高い新幹線技術を自ら体感し、米国でのトップセールスに役立てる狙いがあった。米国では、JR東海が超電導リニア技術の売り込み、JR東日本がカリフォルニア州の高速鉄道計画への参画を目指している。
ただ、首相の本当の狙いは別のところにあった。北陸新幹線の金沢-福井間の延伸前倒しに向けた現地の状況を確認することだ。2023年春ごろに、金沢から福井県南西部の敦賀までの区間が開業する予定だが、福井県内では20年東京五輪までに手前の福井までの先行開業を求める声が高まっている。新幹線の終着駅となれば、海外からの観光客も含め経済効果が大きいからだ。
首相は福井に入ると、当初日程になかった福井駅を突然視察した。福井駅周辺は北陸新幹線の延伸を見越して開発が着々と進んでおり、首相はすでに完成している北陸新幹線の駅部分で担当者から説明を受け、記者団に「大変強い地元の熱意を感じた。一日も早く福井までという気持ちは当然だ」と福井までの先行開業に理解を示した。3週間前には、側近の加藤勝信官房副長官(59)を北陸新幹線延伸の作業現場に派遣し、先行開業の実現可能性を探っていた。
福井は、首相が“将来の日本のリーダー”として目をかける自民党の稲田朋美政調会長(56)の地元でもある。先行開業を実現するには、想定していなかった福井駅での折り返し運転をするための線路やホームの新設という問題のほか、用地買収のスピードアップなどに追加費用も必要となるが、首相周辺は「首相は先行開業に向け『稲田氏に汗をかいてほしい』と期待している」と語る。
福井までの先行開業をめぐっては、与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)が夏までに結論を出すことになっている。稲田氏が首相のバックアップを受けて先行開業に道筋を付けることができれば、当選4回の稲田氏にとって今後のステップアップに向けての大きな実績となるに違いない。
稲田氏以上に北陸新幹線の金沢以西の開業前倒しに熱心だったのは石川が地元の森喜朗(よしろう)元首相(77)だ。今回の首相視察にも、森氏は東京駅から北陸新幹線に一緒に乗って同行している。
ただ、延伸には一筋縄では行かない事情もある。政府筋によると、昨年末まで与党PTの座長を務めていた町村信孝衆院議長(70)が、北陸新幹線よりも自分の地元の北海道新幹線の先行開業を優先させてしまったというのだ。
政府・与党は今年1月、北海道新幹線の新函館北斗-札幌を従来計画より5年前倒しして30年度末に、北陸新幹線の金沢-敦賀を3年前倒しして22年度末に開業すると決めた。北陸側からすると、北海道の財源を北陸にさらに投入すれば福井までの先行開業も可能だったというのだ。森氏が北陸新幹線の開業式典に欠席したのは、これに怒ったからともされる。
森、町村両氏とも自民党最大派閥、清和政策研究会(細田派)の会長経験者であり、首相も稲田氏も清和研出身者だ。見方を変えれば、整備新幹線の延伸をめぐる争いは清和研内の勢力争いにもなっているといえる。(桑原雄尚/SANKEI EXPRESS)