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政治
【安倍政権考】死角はないのか第3次内閣
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12月24日夜、第3次安倍内閣が発足し、記念撮影に臨む安倍晋三(しんぞう)首相と閣僚=2014年、東京都千代田区・首相官邸(酒巻俊介撮影) 「なすべきことは明確であります。安倍内閣の総力を挙げて、この総選挙で国民の皆さまにお約束した政策を一つ一つ確実に実現していくこと、それに尽きると考えています」
安倍晋三首相(60)は24日夜、第3次内閣発足後初の記者会見で、改めて経済政策「アベノミクス」や安全保障法制の見直しなどの政策実現に強い意欲を示した。先の衆院選では自民、公明両党で再び3分の2を上回る議席を獲得。盤石の態勢を築く中、もはや言い訳のできない正念場を迎えているともいえる。
そういう意味で、衆院選後の人事が注目されたが、主要な自民党役員は全員続投。閣僚も政治資金問題を抱える江渡聡徳(えと・あきのり)防衛相兼安保法制担当相(59)を中谷元(なかたに・げん)・元防衛庁長官(57)に交代させるだけで終わった。大幅な人事入れ替えによる新たなスキャンダル発覚のリスクを避けた格好だ。
首相は閣僚について、衆院選の公示前から全員再任する方針だった。江渡氏の政治資金問題も「十分乗り切れる」(官邸筋)と判断していたが、選挙後に江渡氏が「安保法制の国会審議で迷惑をかけらない」と再任を固辞、首相も受け入れざるを得なかった。政府高官は「江渡氏の親族が猛反対した」と打ち明ける。
当面の国会審議を乗り切る算段は付いたが、首相はさらにその先を見据えている。来年9月に任期満了を迎える自民党総裁選だ。党内で首相に対抗する動きは今のところ見られないが、首相周辺は「通常国会終盤の来年夏の情勢次第で、名乗りを上げる人が必ず出てくる」と警戒する。
半年以上先の景気状況は見通せない上、安保法制の国会審議で内閣支持率を落とす可能性もある。時の首相が少しでも隙を見せれば足を引っ張り、あわよくばその座を奪おうとするのは政界の常。首相が「芽が小さいうちに不穏な動きは封じる」と考えるのは不思議ではない。
その動きの一つが衆院議長をめぐる人事だ。伊吹文明(いぶき・ぶんめい)前議長(76)は衆院選後も続投することに意欲を示していたとされるが、首相は町村信孝元官房長官(70)への交代を指示した。伊吹氏は自身のフェイスブックで今回の衆院解散を批判するなど首相にとって“煙たい”存在であり、発言力を抑えるための「事実上の更迭」と見る向きもある。
後任議長の町村氏も、首相が在籍していた最大派閥「清和政策研究会」の先輩だが、常々「首相とはそりが合わない」といわれ、伊吹氏と同様“目の上のたんこぶ”だった。町村氏の議長就任で派閥会長は、町村氏から首相の信頼が厚い細田博之幹事長代行(70)に交代。もともと首相は第1次政権の退陣後も清和研にとどまり、将来的な「安倍派」への移行をもくろんでいた。今回さらにその動きが強まった形となる。
長期政権を視野に、着々と先手を打つ首相だが、もう一つのカギが衆院当選2回以下の大量の若手議員の支持を得ることだ。2年前の衆院選以降に初当選した議員は総裁選の激しい攻防を経験しておらず、若手の動向が総裁選の行方を左右することも考えられる。
ベテラン秘書は「首相は今回の選挙戦で、目をかけている若手の応援に特に力を入れていた。党全体の議席の増減よりも、“安倍シンパ”が何人当選したかの方に関心を持っている」と指摘する。
「来年が皆さまに取って素晴らしい一年となりますことを祈念しております」
24日の会見の冒頭発言をこう締めくくった首相。政界は「一寸先は闇」ともいわれるが、来年は首相にとっても素晴らしい一年となるのだろうか。(桑原雄尚/SANKEI EXPRESS)