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新国立建設費 900億円上回る2520億円に コスト増、難工事 巨大アーチ元凶
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2020年東京五輪・パラリンピックのメーンスタジアムとなる新国立競技場のイメージ修正案(日本スポーツ振興センター提供) 政府は24日、2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場の整備費について、当初予定を約900億円上回る2520億円とする方針を固めた。屋根を支える2本の巨大なアーチ構造を特徴とするデザインは維持する。近く建設業者と工事契約を結び、10月に着工する予定で、19年のラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会までの完成を目指す。
景観を阻害し、コストも掛かりすぎるとして、建築家や市民からデザインの見直しを求める声が上がっていたが、政府は工事の遅れにつながる大幅な設計変更は困難と判断した。
菅義偉(すが・よしひで)官房長官は24日の記者会見で「工事の進捗状況に応じて国民に対し丁寧に説明することが大事だ。文部科学省がしっかり対応する」と述べた。
競技場の整備費は、資材や人件費の高騰、消費税増税の影響などで大幅に膨張した。文科省と事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は、当初1625億円としていた整備費(旧国立競技場の解体費67億円を除く)を抑えるため、観客席の一部を仮設にするなどコスト削減に向けた計画見直しを続けていた。
約370メートルに及ぶ巨大アーチのデザインは、12年にJSCが実施した国際公募で選ばれた。だが、技術的に難しくコスト増や工事の遅れにつながるなどと建築家らが反発、デザインの見直し案も提案していた。
≪コスト増、難工事 巨大アーチ元凶≫
2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場の整備費が、基本設計を約900億円も上回る2520億円となる見通しとなった。議論を呼ぶ2本の巨大なアーチは維持するが、難工事を伴う設計にはリスクがつきまとい、大きな課題となる巨額の財源確保も今後の焦点になる。
「背水の陣で、ぎりぎりまでコストを圧縮してきた」。事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)幹部は24日、疲労感を漂わせながら語った。昨年5月の基本設計段階で1625億円と見込んだ整備費は、資材価格の高騰などの影響で膨張。実施設計に入ってゼネコン側から提示された金額は「3000億円近く」(JSC関係者)に上り、削減のため一部座席を仮設とするなどの変更を強いられた。
建築家の槙文彦氏らはアーチ構造が巨額のコストや工期の長さの「元凶」だとし、抜本的な計画見直しを主張。下村博文文部科学相は22日に「謙虚に耳を傾けた上で最終判断したい」との姿勢も見せたが、19年秋開幕のラグビーW杯に間に合わせるには大幅な変更は現実的でないと判断した。アーチ構造をやめれば、屋根だけでなくアーチを支える基盤部分など全体の設計を変える必要がある。JSC関係者は「設計をやり直せば少なくとも1年はかかる。五輪に間に合わせることも厳しくなる」と明かした。
2本のアーチは長さ370メートル以上にも及ぶ。槙氏は「技術上、大変な問題がある」と指摘し、別の建築家も「巨大クレーンを使ってビルを横にしてつり上げ、溶接でつなげていくようなもの。ゼネコンも本当につくれるのか自信がないと思う」と難工事を危惧した。文科省関係者は「終わってみて3000億円を超えてしまえば、アーチは負の遺産になる」と懸念する。
整備費に投入できる国費に限度がある中「頼みの綱」がスポーツ振興くじ(サッカーくじ)だ。超党派のスポーツ議員連盟は、新国立に充てるくじの売り上げの割合を、現在の5%から10%に引き上げるための法改正案を今国会にも提出する方針。成立すれば、近年の売り上げ実績を基にすると年間100億円以上の確保が見込める。
スポーツ議員連盟はくじの対象をプロ野球に広げようとするが、見通しは立たない。野球賭博との関わりで選手が八百長行為を行ったとされる1969年の「黒い霧事件」の反省から「選手買収などにつながる可能性がある限り、球界には抵抗感が根強い」(関係者)からだ。
文科相が東京都の舛添(ますぞえ)要一知事に求めた500億円の負担も焦点になる。当初は強く反発していた舛添知事も、大会組織委員会の森喜朗会長と18日に会談した後は「(整備費などの)情報をもらって、できるだけの協力をする」と述べるなど態度を軟化させた。関係者は「対立がエスカレートすれば(負担に前向きな)都議会自民党との関係を壊しかねないからではないか」と推測する。
だが、納税者である国民や都民からは不満の声が上がる。計画反対派の市民団体で共同代表を務める作家の森まゆみさんは「(東日本大震災の)被災地に仮設住宅で過ごす人がいる中で、東京にこれだけのお金をかけてスタジアムをつくるのは全くおかしい。東北の被災地を励ますという五輪の大義から大幅に外れている」と批判した。(SANKEI EXPRESS)