ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
政治
新国立、負担額合意前に工事契約へ JSC方針、都知事の反発必至
更新
解体作業が進み、整備問題が波紋を広げている国立競技場跡地=2015年6月16日、東京都新宿区(寺河内美奈撮影) 2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場(東京都新宿区)の建設をめぐり、日本スポーツ振興センター(JSC)は16日、国が費用の一部負担を求めている東京都との負担額の合意を先送りし、ゼネコン業者と工事契約を結ぶ方針を固めた。予定する19年3月に完成させるためには、契約を7月上旬より遅らせることができないため。業者と契約額で合意したうえで、2500億円程度まで膨らむとの指摘もある総工費の概算額や内訳について、都に提示する方針で、舛添(ますぞえ)要一知事のいっそうの反発が予想される。
都に一部負担を求めてきた文部科学省は当初、都から一部負担の同意を得た上で、JSCが業者と契約を結ぶ計画でいた。
下村博文(しもむら・はくぶん)文科相が5月18日に舛添知事を訪問して会談。競技場周辺の整備費などとして500億円の負担を求めたが、舛添知事は「(周辺整備費として)支出できるのは50億円程度」との認識を示し、最終的な総工費の概算額の内訳と、負担額の算定根拠を明示するよう求めた。
しかし、JSCや文科省は概算額などが、業者と随意契約を結ぶ際の「予定価格」とほぼ同額になるとして、契約額が業者と合意に達し、金額が確定するまでは公表できないとしている。
一方で、完成時期が遅れれば国際的な信用問題にかかわるため、都との間で負担額の合意を得るよりも、業者側との契約を優先することが必要と判断した。JSCは業者と契約額で合意した後に総工費の詳細について都に公表する。
舛添知事は膨れあがる総工費の原因の一つとされるデザインの見直しについても「議論すべきだ」と主張しており、負担額について合意のないまま現行案で契約が行われれば、両者の溝はさらに深まりそうだ。
≪斬新さ足かせ コンペ時から課題認識も≫
新国立競技場の建設をめぐり、JSCが東京都との負担額の合意を先送りし工事契約を先行させる方針を固めたことで、舛添(ますぞえ)要一都知事がさらに反発することが予想される。迷走の発端は女性建築家、ザハ・ハディド氏(64)の作品をデザインに採用した3年前のコンペだった。
「審査員も予算面から建設が厳しいことは分かっていたはずだ」。10月の新国立競技場の着工を前に、建築関係者はハディド案への複雑な思いを漏らした。
実際、審査段階でも委員の間では予算面などが課題として浮上していた。JSCは2012年9~11月に国際デザインコンクールを実施。審査委員は10人。委員長には日本を代表する建築家、安藤忠雄氏が就いた。
国内外から応募のあった46作品は最終審査でハディド案のほか、日本と豪州の計3作品に絞られた。「強烈」「斬新」。ハディド案はこう評価されたが、「コストが懸念」「修正が必要」とも指摘された。決選投票でも票が割れ、最後は安藤氏の“裁定”で決まった。
JSCの報告書によると、安藤氏は審査講評の中でハディド案を高く評価したが、「課題がたくさんあり、設計者と話し合いながら進める必要がある」とも付け加えていた。
JSCはハディド案採用当時、建設費を1300億円と見積もっていたが、資材高騰などの影響で3000億円に膨らむことが判明。14年5月、競技場の規模縮小などで建設費を1625億円まで削ったが、人件費の高騰や消費税率引き上げ分もあって、最終的には2500億円程度に膨らむ公算が大きい。
建設費負担をめぐっても対立が起きている。下村博文(しもむら・はくぶん)文部科学相が都側に500億円の負担を要請したのに対して、舛添知事は「根拠がない」と突っぱねた。
下村文科相は今月9日の記者会見で、舛添知事からの要請を受けて都負担の根拠法を策定する考えを示したが、都の幹部は「都を狙い撃ちにした法律なんて制定することができるのだろうか」と疑問を呈した。
憲法95条は、ある地方自治体だけに適用する特別法は、住民投票で過半数の同意を得なければ制定できないと規定しており、舛添知事も「国が勝手に『都民だけこうしろ』ということを決めれば、都民は怒る」と突き放す。(SANKEI EXPRESS)