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成長戦略骨子、企業の稼ぐ力・人材力強化 競争促す大学改革 基礎研究活発化
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産業競争力会議で挨拶する安倍晋三(しんぞう)首相(右端)=2015年6月11日、首相官邸(斎藤良雄撮影) 政府は11日、産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)を開き、月内の閣議決定を目指す新成長戦略の骨子を示した。足元の経済状況について「経済の好循環を本格化させるための正念場」とした上で、企業の稼ぐ力の強化や、人材力の強化などを掲げた。2020年の東京五輪を好機とした先端技術開発も加速する。
骨子では、人口減少などを見据えて「生産性向上による供給制約への対応」が成長戦略の課題となると指摘した。その上で企業の稼ぐ力の向上に向け、情報を分析し生産性を高める「人工知能(AI)」やビッグデータの活用による産業構造の変化を打ち出した。
また、人材力の強化に向け、社会人のキャリアアップに取り組む企業を支援する仕組みの導入や、高齢者の活躍促進などを盛り込んだ。マイナンバー制度活用による産業振興も掲げた。
教育・大学改革では、国立大学の経営力強化に向け、大学間競争の活性化を促す。IT(情報技術)などに特化した新たな高等教育機関の創設や、グローバル競争を勝ち抜くため研究体制を強化した「特定研究大学」を設置する方針も示した。
科学技術分野では清掃や警備、道案内などのサービスを提供するロボットの普及を図る。東京五輪を日本の“強み”を世界にアピールする機会ととらえ、人手不足解消に役立つロボット技術の開発や、高齢者やベビーカーの利用者が移動しやすくするため、自動走行技術を生かした次世代交通システムの導入などを盛り込んだ。
国民の健康寿命延伸に、ヘルスケア産業を活用するプランも提示。治療目的で訪日する外国人向けに、がん治療や再生医療を提供する国内医療機関を「日本国際病院(仮称)」として一体的に売り込む。マイナンバー制度活用による産業振興も盛り込んだ。
≪競争促す大学改革 基礎研究活発化≫
骨子が示された成長戦略には、これまで企業が担ってきた技術革新の“芽”となる研究開発や人材育成を、国立大学や新設される高等教育機関へ移行する狙いがある。経済界の要望に応えた側面も大きいが、改革により研究費を失いかねない一部の大学や、少子化の中で学生争奪戦を余儀なくされる短大や専門学校からの反発も予想され、今後本格化する制度設計に向けた議論を円滑に進める工夫が課題となる。
骨子では、世界ランキング上位を目指す国立大を「特定研究大学」に指定し、国が後押しする方針を示した。国公私立大を対象に世界最高水準の教育や研究を行う大学も「卓越大学院」として支援していく。
これらの改革が断行されれば、大学間の競争や国による注力分野の選別を強めることとなり、技術革新に結びつく大学側の経済成長を意識した基礎研究がより活発になると想定される。
改革を進める背景には、企業の研究開発の低迷がある。経済産業省によると、事業化まで5年以上かかる中長期的な研究開発は経済成長の端緒となるものだが、2010年時点で研究開発費全体の1割程度にまで落ち込んだ。こうした現状の打破が課題となっていた。
政府が示した改革路線に沿って大学の研究開発体制を強化すれば、大学を企業に替わる成長戦略の拠点に位置付けられる。
一方、新設されることになった高等教育機関では、高卒者の進学先としてITや金融などの分野で実務的な授業が行われる。中央教育審議会では民主党政権下の11年1月にも、今回とほぼ同じ内容で職業教育に特化した学校制度の創設が提言された。だが、当時は学校関係者への配慮などから、提言は宙に浮いた格好となり、その後も“放置”されたままで実現には至らなかった経緯がある。
今後は改革の矛先を向けられた大学や、経営への影響が避けられない短大や専門学校などから反発も予想される。そうした反論を踏まえた上で、より効果的な制度設計につなげる工夫が課題となりそうだ。(SANKEI EXPRESS)