ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
経済
JA全中・万歳会長が辞任表明 TPP・コメ改革…課題山積、広がる動揺
更新
任期途中での辞任を表明した全国農業協同組合中央会(JA全中)の万歳章(ばんざい・あきら)会長。記者会見後、報道陣に囲まれた=2015年4月9日、東京都千代田区(早坂洋祐撮影) 全国農業協同組合中央会(JA全中)の万歳章(ばんざい・あきら)会長(69)は9日の理事会で、任期途中で辞任する意向を表明した。東京都内で開いた記者会見では「農協法改正案の閣議決定を一つの区切りとしたい」と述べ、辞任時期は8月になるとの見通しを示した。
政府の農協改革で、JA全中は大幅な権限縮小を伴う改革案を受け入れた。JAグループ内では、事実上の引責辞任との見方も出ている。後任は地域農協の組合長らが投票する選挙を実施し、8月に決まる見通し。
事務方トップである冨士重夫専務理事(61)も、健康上の理由で5月に退任すると表明した。JA全中は会長と専務理事の2人が任期中に退任し体制が刷新されることとなった。
万歳氏は記者会見で、引責との見方を否定した上で「前向きな中で新会長に託すということだ。組合員のための新しい中央会の在り方を新会長の下でつくってもらいたい」と期待を示した。また、「(改革の)方向付けをやってきた皆さんはたくさんいるので、混乱はしない」と述べ、辞任による混乱は起きないと強調した。
万歳氏は新潟県農業協同組合中央会会長を経て、2011年8月にJA全中会長に就任。昨年8月に任期3年で再選されたばかりだった。農協法改正案は今月3日に閣議決定された。JA全中は現在の特別認可法人から一般社団法人に組織変更するほか、全国の地域農協に対する一律の監査権限も失う。
JA全中は19年9月末までに新組織に移行する。現在、内部にあるJA全国監査機構を監査法人として独立させるなど、大きな変革期を迎えており、次期会長は難しいかじ取りを迫られそうだ。一方、安倍晋三首相(60)は9日、官邸で記者団に「(万歳氏には)農協改革で大変な協力をいただいた」と謝意を示した。自民党の稲田朋美政調会長(56)も党本部で記者団に「万歳氏は言うべきことをきちんと主張し、最後は(改革案を)まとめられた。大変感謝している」と述べた。
自民党内からは「(万歳氏は)筋を通した」と理解を示す声が上がっているが、自民党が万歳氏を辞任に追い込んだと有権者に映りかねず、統一地方選への影響を懸念する声も漏れた。農林族議員の一人は「『農協がいじめられ、自民党が勝った』という構図が浮き上がってしまうと、統一選にいい影響はない」と話した。
≪TPP・コメ改革…課題山積、広がる動揺≫
JA全中の万歳(ばんざい)会長が任期途中に辞任する意向を表明した。農協改革や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)で政府に反旗を翻し続けたJAグループのリーダーは、2日前に安倍首相と結束を確認したばかりだった。山積する課題を前にして、表舞台から突然去ることにJA全中には動揺が広がっており、今後の動向が焦点となる。
「会長を辞任したい」。9日のJA全中理事会。全ての議案審議が終わった後、万歳会長は起立して切り出した。「誰にも相談しなかった」(万歳会長)といい、出席者がざわつく中で退席していった。
万歳会長は1000万人程度の組合員を抱えるJAグループのトップとして、TPPや農協改革の論議で政府と渡り合ってきた。
7日には安倍首相と官邸で面会し、激しく対立した農協改革を、今後は協力して進めていくことを確認し、握手を交わした。TPP交渉も大詰めを迎え、万歳会長の役割はますます重要になるはずだった。
9日の記者会見で万歳会長は、政府の農協改革案を受け入れたことに対する引責辞任との見方を否定した上で「組合員から評価される方向で頑張ってほしい」と、次期会長への期待を語った。だがグループ内からは「無責任だと言われても仕方がない」との批判も聞こえてくる。
統一地方選の最中の辞意表明は、永田町や官邸に波紋を広げた。閣僚の一人は、抗議の辞任との見方を示した上で「JAに残ったところで政府と約束した改革の推進と、反対する下からの突き上げの板挟みになるだけだ」と解説した。
JA全中は一般社団法人に移行した後に担う役割や、内部にある監査部門を切り出してつくる監査法人の在り方の検討に着手した。今後、金融庁などとの調整もあり、引き続き難しい局面が予想される。
2018年産米からの国の生産調整(減反)廃止への対応をはじめとしたコメ改革や、農家の所得増大に向けた農産物の輸出拡大といった成長戦略の実行も待ったなしだ。10月には3年に一度のJA全国大会が控えている。中期計画に当たる大会議案では、こうした課題への対応方針を示すことになっており、策定作業が急ピッチで進んでいる。
冨士専務理事も退き、JA全中はツートップを一度に失う。万歳会長は「(改革の)方向付けをやってきた皆さんはたくさんいるので、混乱はしない」と不安を打ち消すが、一連の改革を熟知している万歳会長らが去るのは大きな痛手だ。
「改革の方針は事務方に下りてきている。驚きは隠せないが、影響はあまりないと思う。前向きに取り組むだけだ」。あるJAグループの職員は、自分に言い聞かせた。(SANKEI EXPRESS)