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【安倍政権考】稲田氏に訪れた「農協改革」の試練

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【安倍政権考】稲田氏に訪れた「農協改革」の試練

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地域の農協関係者に農政改革について説明する自民党の稲田朋美政調会長=2015年1月17日、福井県福井市の福井商工会議所(力武崇樹撮影)  安倍晋三首相(60)肝いりの農協改革の実現に向け、自民党内で本格的な議論が始まった。稲田朋美政調会長(55)は全国農業協同組合中央会(JA全中)の指導権・監査権廃止を念頭に、「中央集権的な農業での地方分権を目指す」と意気込むが、農林族議員を中心に党内の反発は強い。昨年9月の内閣改造・党役員人事で首相に「保守派のスターにしたい」と大抜擢(ばってき)された稲田氏に、最初の大きな試練が訪れた。

 幹部会議で批判噴出

 20日午後、自民党本部で農協改革をテーマに開かれた政調幹部会議。稲田氏は居並ぶ先輩議員らを前に、JA全中の指導権・監査権を廃止し、地域農協の自立性を確保することで農家の所得を向上させるという改革の理念を訴えた。その上で「この改革は決して農協つぶしではない」と協力を求めた。

 だが、幹部の一人は「農協の監査は今の制度がベストだ。稲田さんは前のめりになっている」と冷や水を浴びせた。稲田氏も「世間に『農協つぶし』という間違ったイメージが広がっている。間違っていることを間違っているといっているだけです」と反論したが、会議は結論が出ないままに終わった。

 幹部会議の直前には、農協改革の法案検討プロジェクトチーム(PT、吉川貴盛座長)の会合が党本部で開かれた。若手からベテランまで集まった会合は、本格的な党内議論のキックオフとなったが、「なぜ監査権をなくせば農家の所得が増えるのか」「経済合理性だけで考えてはいけない」「中央会制度は維持すべきだ」と改革への批判が噴出した。

 昭和40(1965)年代に580万人を超えた農協の正組合員は、2012年に約461万人にまで落ち込んだ。それでも、選挙での農協の影響力は無視できない。会合では「改革を急ぎすぎると、来年の参院選がどうなるか分からない」と農協の反発を懸念する声も上がった。

 日頃は強気な発言も多い稲田氏だが、この日ばかりは周囲に「賛成意見が出ないのは、さびしいなあ…」とつぶやいた。

 首相と党とのはざま

 弁護士として「靖国裁判」や「百人斬り訴訟」に取り組んでいた稲田氏を05年に政界に引き込んだのは当時、党幹事長代理を務めていた安倍首相だった。稲田氏への信頼は厚く、第2次安倍政権では衆院当選3回だった稲田氏を行政改革担当相に起用した。稲田氏も首相の期待に応え、霞が関の抵抗が激しかった公務員制度改革を成し遂げた。

 その後の政調会長起用には周囲からやっかみも漏れたが、稲田氏は「まったく周りの声は気にならない」と淡々と職務をこなしてきた。ただ、農協改革は安倍首相が「岩盤規制を打破する」と並々ならぬ意欲を見せるだけに、さすがの稲田氏の肩にも重くのしかかる。

 稲田氏は農林族議員が議論の中心になりがちな法案検討PTとは別に、党規制改革推進委員会でも検討を進める方針だ。改革に積極的な後藤田正純衆院議員(45)を委員長に起用し、改革への機運を盛り上げる考えだ。

 実は、安倍首相は稲田氏の政調会長就任にあたり、党重鎮の二階俊博総務会長(75)の名を挙げ、「困ったことがあれば協力を得たほうがいい」とアドバイスしたことがある。その二階氏は20日の記者会見で、農協改革について「できるだけ時間をかけて慎重に議論をしていくことが大事だ」と述べた。

 首相の期待を背負った稲田氏は、トップダウンでの決着をつけたいところだろう。しかし、二階氏ら党側は「丁寧な議論を」と持久戦を主張する。稲田氏は「首相」と「党」とのはざまに立たされている。(力武崇樹、写真も/SANKEI EXPRESS

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