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政治
【農協改革】JA全中、受け入れ 事実上の解体
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自民党の農林族幹部との会談を終え、記者団の質問に答える全国農業協同組合中央会(JA全中)の万歳(ばんざい)章会長=2015年2月9日午後、東京都千代田区永田町の自民党本部(酒巻俊介撮影) 政府・自民党は9日、全国農業協同組合中央会(JA全中)の一般社団法人化を柱とする農協改革案をまとめた。JA全中の万歳章(ばんざい・あきら)会長(69)は9日、党側に改革案の受け入れを表明。安倍晋三首相(60)が規制改革の目玉と位置づけてきた農協改革案の策定を受け、政府は農協法改正案を3月末までに国会提出する。約60年間続いた農協の中央会制度は大きく変革することになる。
万歳氏は9日、党本部で林芳正(はやし・よしまさ)前農林水産相(54)ら党農林族幹部と会談。その後記者団に「大変革だが改革案の内容に沿って決断をさせてもらった。農家所得の増大と地方の活性化に向け力を結集したい」と述べた。
党の合同会議は政府案を了承。稲田朋美政調会長(55)は会議で「日本の農業の始まりだ」と述べた。10日に公明党と与党協議を開き正式に政府・与党案を決める。
改革案では、2019年3月までにJA全中を現在の農協法に基づく特別認可法人から社団法人に転換。これに伴い、地域農協の経営状態などを監査してきた監査権や指導権は撤廃する。
JA全中の監査部門は独立させ新監査法人を設立する。独自の「農協監査士」が担ってきた監査を民間の公認会計士が行えるようにし、地域農協が監査法人を選択できるようにする。
各都道府県中央会は農協法上の「連合会」に位置づけ存続させる。農協利用者のうち農業に携わらない「准組合員」の利用制限は今後5年間利用実態を調査した後可否を判断する。全国農業協同組合連合会(JA全農)は株式会社への組織変更が可能とした。
≪「強い首相」になびいた党 統一選に懸念も≫
農協改革をめぐる政府・自民党の本格的な議論は、1月20日に法案検討プロジェクトチーム(PT)で初会合を開いてからわずか20日間での短期決着となった。背景には、農協改革を経済政策「アベノミクス」第3の矢の成長戦略の要と位置づける安倍首相の強い意向がある。「改革断行国会」と命名する首相の前に、党内の反対論が急速にしぼんだ形だが、なお4月の統一地方選への影響を懸念する声も残っている。
「成長戦略の成果を結実させるため、改革を実現する法案が骨抜きにならないよう全力で準備を進める」
首相は9日の政府・与党連絡会議で、農協改革への決意をこう語った。
自民党関係者によると、首相は党とJA側による水面下の協議にあたり、党幹部に「改革が後退しないように」と電話で指示。特にJA全中の一般社団法人化と、内部組織である監査部門の分離独立だけは「全中が反発しようと絶対譲歩するな」と厳命したという。
JA全中は、農協法に基づき約700の地域農協から集めた「賦課金」年約80億円を元手に政治活動を展開。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉では、国政選挙での“組織力”をちらつかせて自民党議員に反対を迫るなど、首相にとっては「他団体と比べても抵抗の手法が目に余る」(首相周辺)存在だった。
首相の強い意向に、当初は抵抗する構えを崩さなかったJA全中は徐々に屈していった。これに伴い、自民党内の反対論も急速にしぼんでいった。アベノミクスに対する世論の期待感は高く「統一地方選を控えたこの時期に党内抗争するのは外聞が良くない」(党中堅)との判断も働いたようだ。先月20日のPT初会合では懸念の声が大半を占めていたが、今月9日の合同会議ではほとんど異論が出ず、一気に「了承」まで持ち込まれた。
とはいえ、農協はこれまで自民党の「集票マシン」として機能してきただけに党内には不安も残る。
1月の佐賀県知事選では、地元JAグループの支援候補が与党推薦候補に勝利するなど農協票の固さをみせつけた。合同会議では出席者から「統一選への影響が出ないようお願いしたい」という意見も出た。来年夏の参院選への悪影響を懸念する向きもあり、首相にとっては今後党内の不安をどう解消するかも課題となる。(力武崇樹、水内茂幸/SANKEI EXPRESS)