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【農協改革】国際競争見据え 強い農業育成へ

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【農協改革】国際競争見据え 強い農業育成へ

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自民党の農協改革等法案検討プロジェクトチームで、挨拶する谷垣禎一(さだかず)幹事長と出席した自民党議員=2015年2月9日、東京都千代田区永田町の自民党本部(早坂洋祐撮影)  政府・与党が国内農業の強化に向けて大なたを振るうことになった。9日決着した農協改革は、約60年間続いた農協の中央会制度を抜本的に見直す農政の大転換となる。農協を含む一連の農業改革は安倍晋三政権の成長戦略の柱の一つに位置づけられ、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の妥結を見据えて国際競争に負けない農業の育成につなげられるかが問われている。

 狙いは「創意工夫」

 「各農協は自由に経営が行えるようになり、農協同士が競争する市場が形成される」。ある農林水産省幹部は農協改革の意義をこう強調する。

 今回の改革は全国約700の地域農協に「競争原理」を植え付けて、創意工夫を引き出すのが狙いだ。

 これまで各地域農協はJA全中から農協法に基づく監査を受け、画一的な経営指導に従わざるを得ず、農産物の共同販売や資材の共同購入で農家に横並びのサービスしか提供できないことが問題視されていた。

 政府・与党が今回の改革で描く青写真は、JA全中の監査・指導権をなくすことで、各地域の農協が独自の経営的感覚を磨き、新たな農産物の開発や流通ルートの開拓でお互いに競い合うようになる姿だ。

 各地域農協は理事を選んだり、組合員の加入を認めたりする際、それぞれの農協のある地域の農業従事者を対象とするようJA全中に求められていた。今後は地域農協が理事に経営者や流通業者など農家以外の人材を積極的に登用することや、農家が農協への加入を自由に決めることが想定される。その結果、「本当に強い農協だけが生き残り、国内農業の底上げにつながる」(農水省幹部)というわけだ。

 「岩盤」打破の象徴

 安倍政権は一昨年6月にまとめた成長戦略で、農業を「成長産業」と位置づけた。10年間で農業・農村の所得を倍増させ、農産物の生産から加工、販売までを手掛ける6次産業の市場規模を現在の1兆円から10兆円に拡大。2020年までに農林水産物・食品の輸出額を1兆円に倍増させる目標を掲げた。

 背景には国内農業が農家の高齢化や消費者の食生活の変化で衰退の一途をたどっており、立て直しが喫緊となっている事情がある。

 政府はこれまで、18年度をめどにコメの生産調整(減反)を廃止することを決めたほか、「農地中間管理機構」を通じた農地集約も進めている。小規模・零細農家の保護に重点を置いた農政から脱却し、農業経営の大規模化を促進するのが目的だ。

 国家戦略特区による6次産業化の推進に向けた規制緩和や輸出促進団体の設立などで農業の競争力強化も目指す。

 中でも今回の農協改革は既得権益層の抵抗が根強い“岩盤規制”打破の象徴に位置づけられている。首相も9日の政府与党連絡会議で「改革を実現する法案が骨抜きになることなく、さらに前に進めるものになるよう全力で準備したい」と決意を示した。

 貿易自由化と一体

 政府が農業改革を急ぐのは、TPPをはじめとする貿易自由化の流れを見越し、規模拡大や輸出促進で国際競争力の向上を図る必要があるためだ。

 TPP交渉は日米協議でコメや牛・豚肉など日本の重要農産品の扱いで、無関税・低関税の輸入枠の拡大や関税の大幅な引き下げが避けられない情勢となっており、安い輸入品の流入にも耐えられる農業経営の構築が不可欠となっている。

 ただ、実際に農業強化につながるかは今後の農協や農家の自助努力に負う側面も大きい。

 農協改革では、農家以外の「准組合員」の利用規制が見送られ、農協が従来通りの経営でも何とか存続できる余地も残されている。政府が描く農業改革の道のりは、まだ緒に就いたばかりだ。(本田誠、西村利也/SANKEI EXPRESS

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