ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
経済
【国際政治経済学入門】借金型経済の米中 日本は一線画せ
更新
邦銀の国際融資と米中の国際銀行借り入れ(前年比増減額、億ドル)=2009年12月~2014年12月。※データ:国際決済銀行(BIS) 経済の産物である「借金」を、少し上品に呼べば「債務」となり、「金融」とは「債務」のやり取りのことだ。その取引を行う場を「金融市場」と言う。お札とは中央銀行が発行する無期限無返済無保証の永久債務証書、国債は政府の期限付き債務証券、株式は企業による無期限債務証券、社債は期限付き債務証券である。
アングロサクソン(米国と英国)は基軸通貨ドル建て中心の金融市場を支配してきた。米国は戦後、産業競争力が低下し、日本などに圧倒されるようになると、1971年8月15日にドルと金のリンクを断ち切り、ドルを無制限に発行できる仕組みに変えた。ドルが金の束縛から開放されることは、すなわち金融市場の膨張を意味した。ニューヨークとロンドン主導のグローバル金融資本主義モデルはこうして生まれた。
他方で、米国の自動車などの産業競争力は日本などに押されっぱなしで、雇用や賃金水準の低下が進む。そこで、ワシントンは80年代から90年代にかけて、盛んに日本たたきを行ったが成果は出ない。90年代半ばのIT革命は産業全体の雇用・賃金の底上げに結びつかない。そんな中、2001年9月11日の同時中枢テロが起きた。家計消費が7割を占めるアメリカ経済を何とか支えてきた金融市場の中心がテロ攻撃に遭い、大きく揺れた。そこで当時のブッシュ政権が目をつけたのが住宅市場である。
金融のからくりを使って家計による借金消費を容易にさせる。そのための規制緩和は、クリントン前民主党政権当時、ウォール街出身のルービン財務長官が実行した。低所得者向けの「サブプライムローン」の証券化商品も登場して住宅相場が上がる。銀行は値上がった分を前貸ししてくれるので、消費者は喜んで消費にふける。
この仕掛けは、住宅相場が下がり出すと破綻した。サブプライム危機、リーマンショックと続く。大恐慌になるのを防ぐ手段はただ一つ。連邦準備制度理事会(FRB)がカネ(永久無返済債務証書)を刷って金融市場に流し込んで、株価を引き上げてきた。それでも回復力は鈍いまま現在に至る。家計が債務を増やさないことには、消費が活気づかない。
中国の経済モデルは借金による投資主導型である。家計消費は国内総生産(GDP)の35%程度で、米国の7割の半分の水準でしかないが、固定資産投資は約5割もある(日米は2割前後)。経済を高度成長させるためには投資を増やせばよいわけで、リーマンショック後は、共産党の指令によって国有商業銀行が不動産開発資金を国有企業や地方政府に融資してきた。国内資金で足りない分は国有銀行や企業が海外の銀行からの借り入れで間に合わせる。
国際決済銀行(BIS)の国際銀行融資統計でみると、中国は12年から米国をしのぐ規模で海外から借金をし続けている。14年末の前年比では1422億ドル増で、米国の830億ドル増はもとより、途上国全体の1300億ドル増を上回る。さらに、中国の債券(債務証券)による海外での資金調達額も14年は1656億ドルで、米国の1571億ドルを上回る。中国は世界最大の借り手であり、借金で投資主導型経済モデルを維持しているわけだ(
さりとて、中国には借金投資以外に経済を成長させるモデルは見当たらないので、「多国間銀行」という看板を挙げて世界からカネを集めて、インフラ投資を行うというのが、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」である。もちろんインフラ投資の7割以上は中国国内向けである。
借金により消費するわけにいかなくなった米国はもはや頼りにならない。さりとて、中国に傾斜してもカネをむしり取られるのが関の山である。日本は世界最大の貸し手である。国際金融市場での銀行債権は3兆ドル(約360兆円)以上に上る。米中の借金型経済モデルにカネをまわしたところで、日本の経済成長にはほとんど寄与しない。銀行は国内の有望プロジェクトを発掘し、国内融資を最優先すべきではないか。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)