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【国際政治経済学入門】中国人民銀行・周小川総裁の野望

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【国際政治経済学入門】中国人民銀行・周小川総裁の野望

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国際通貨基金(IMF)・世界銀行合同開発委員会にあわせた記念撮影で、ドイツのウォルフガング・ショイブレ財務相(左)とシンガポールのターマン・シャムガラトナム財務相(右)に挟まれ、満面の笑みを浮かべる中国人民銀行の周小川総裁(中央)=2015年4月18日、米国・首都ワシントン(AP)  中国人民銀行の周小川総裁が国際通貨基金(IMF)相手に人民元の「国際通貨」認定工作に躍起となっている。党中央主導のもとに6月末設立準備が進められているアジアインフラ投資銀行(AIIB)で人民元建て融資を可能にし、ドルを中心とする国際金融に対抗する戦略の一環である。

 人民銀行は党が支配する中央銀行であり、周氏は1993年秋の党中央委員会全体会合の「人民元の国際兌換(だかん)通貨化をめざす」という決議の実現に執念を燃やす「国際派党官僚」である。

 託された人民元の国際化

 周氏が中国国家外貨管理局長時代の97年、筆者は国際会議で顔を合わせたことがある。党官僚としては珍しく開けっ広げに英語でモノを言う。会議で筆者が「人民元のドル・ペッグ(くぎ付け)をいつやめるのか」と突っ込みを入れたら、「人民元はあくまでも管理変動相場制であって、ペッグ制ではない」とまくし立てた。当局は外為市場を管理するが、多少の変動幅を持たせる制度なのだという意味で、黒を白といいくるめる中国伝統の口舌の徒そのものだった。

 その言葉通り、人民元をわずかな幅で変動するようにしたのは2005年になってからだが、周氏は人民元改革の担い手として、ワシントンから一目も二目も置かれてきた。胡錦濤前政権時代には「米国に近すぎる」と周りから警戒されるほどだったが、習近平総書記・国家主席は13年に人民銀行総裁3期目の続投を承認した。同総裁として03年に就任して以来、現在まで12年という異例の長さである。習総書記はワシントン人脈とすぐに打ち解ける周氏に特別のミッション「人民元の国際化」を託したのだ。

 周総裁は4月18日、ワシントンで開かれたIMF関連の国際通貨金融委員会(IMFC)への出席にあわせて声明を発表した。IMFの準備資産SDR(特別引き出し権)を構成する通貨に「人民元が新たに含まれるかどうかが大きな問題だ」とし、人民元のSDR採用を各国代表に働きかけた。

 3月22日、ちょうど世界各国が相次いでAIIB参加を表明している最中に、周総裁は訪中したラガルドIMF専務理事に会って、人民元のSDR通貨化で熱弁を振るった。翌日、李克強首相はラガルド氏と北京で会談し、SDRの構成通貨に人民元を採用するよう申し入れた。首相は人民元による資本取引への取り組みを加速し、国内個人の海外投資や外国の機関投資家の中国資本市場への投資を支援する仕組みをさらに整えると訴えた。ワシントンでの周声明はSDR通貨採用でIMF加盟国への多数派工作を意味する。

 IMFはSDR構成通貨の見直しを5年ごとに行う。人民元は今年10月にIMF理事会の議題に上がる予定だ。北京は10年にも申請したが、IMF理事会は却下した。人民元はまだ国際的に自由利用可能ではないという理由だ。周氏らは人民元の国際決済の広がりを評価するよう求めている。

 ラガルド氏は「SDR通貨に採用されるかどうかは、時間の問題だ」と公言しているが、日米欧の総意が得られないと、今秋のIMF理事会ではまたもや5年後に先送りされてしまう。

 AIIB資金調達に不可欠

 SDRはドル、ユーロ、円、ポンドの4大国際通貨で構成されているが、ドルは全通貨の尺度となる基軸通貨であり、他の通貨はドルに対して自由に変動している。しかも、これらの通貨建ての金融資産(資本)取引は自由で、種類も豊富だ。これに対し、人民元の変動は管理されているし、資本取引も厳しく制限されている。SDR通貨として認定するのはかなり無理があるのだが、北京としては是が非でも認めてもらわなければならない。人民元が「国際通貨」にならないと、AIIBの機能がマヒしかねないからだ。

 AIIB最大の問題はその資金調達である。中国は3.8兆ドルの外貨準備を保有しているが、昨年後半だけで1500億ドルも減った。資本逃避などが激しいからだ。14年だけでみれば、中国は米国をしのぐ世界最大の借り入れ国であり、外貨準備を除けば、中国の対外債務は対外資産を2.4兆ドルも上回る。そんな中国が主導するAIIBは信用度が弱く、国際金融市場で巨額の外貨を調達できそうにない。人民元で融資すれば外貨融資を補完できるが、国際通貨でないと、借り入れ側も扱いにくい。

 日本の財務官僚は日本政府がIMF最大のスポンサーであることを背景に、IMFに財務省の省益である消費税増税を勧告させることに熱心だが、日本の国益に関わる人民元のSDR通貨化で、果たして周氏の野望を阻止できるだろうか。(産経新聞特別記者 田村秀男/SANKEI EXPRESS

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