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【FIFA汚職】銀行利用を突破口に 米当局「得点」 W杯ビッグマネーが生んだ「腐敗」
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国際サッカー連盟(FIFA)幹部らの起訴について記者会見するロレッタ・リンチ米司法長官=2015年5月27日、米ニューヨーク(AP) 国際サッカー連盟(FIFA)の汚職事件で、FIFA幹部らは業者らから賄賂など不正利得(ラケッティアリング)を得たり、資金を不正洗浄(マネーロンダリング)したりした罪で米司法当局に起訴された。外国人犯罪者が米国の金融機関を利用した場合、捜査の端緒になり得るとした原則を適用した。捜査では、司法当局がFIFA内に協力者を得たことが大きい。長年、腐敗が噂されながら欧州当局には摘発できなかったなか、米当局が“得点”を挙げた形だ。
米司法省によると、業者側はワールドカップ(W杯)の放映権取得や開催国選定に便宜を図ってもらうため、FIFA幹部らに「1億5000万ドル(約185億円)以上の賄賂やリベート」を支払うなどした。
日本の贈収賄罪は、主に公務員が賄賂を受け取った場合に適用されるが、米国の不正利得罪は民間同士の賄賂のやりとりも対象となる。米国外に住む外国人であっても、米金融機関を利用して賄賂を受け取るなどすれば起訴できる。
米メディアによれば、贈収賄には、米金融機関がかなりの程度使われた。起訴された14人のうちの1人、ジャック・ワーナー元副会長の例では、最終的に金がスイスから、自身が管理するニューヨークのバンク・オブ・アメリカの口座に送金されたという。
リンチ米司法長官によれば、米国内では贈収賄のためのやりとりも計画され、資金洗浄も目立ったという。
米司法省は捜査に際し、米国内のW杯視聴者数の多さや、米メディアからFIFA側に渡る放映権料が多額であることなども他国の捜査機関に説明し、「米国の管轄権」を一貫して主張したという。
捜査の“証拠固め”に、FIFA内の協力者が果たした役割は大きい。この人物は、巨額の脱税で検挙されていたFIFA関連団体「北中米カリブ海サッカー連盟」のチャールズ・ブレイザー元事務局長(米国籍)。当局との司法取引に応じ、FIFA幹部らの極秘会話を収めた録音や文書を司法当局に提供したという。これが詳細な内容を記した起訴資料(161ページ)として結実した。
一斉起訴を発表したリンチ長官は今年4月まで、これらの捜査の陣頭指揮を執っていたニューヨーク連邦地検の検事正だった。長官就任直後の一斉起訴は、オバマ政権が数カ月前から意図していたとの指摘も出ている。(ニューヨーク 黒沢潤/SANKEI EXPRESS)
≪W杯ビッグマネーが生んだ「腐敗」≫
FIFAの汚職事件の背景には、4年に1度開催されるW杯が生み出す巨額マネーの存在がある。単一競技として世界最大規模のスポーツイベントに成長し、スポンサー料や放映権料などのビッグマネーが動く。ブラッター会長の下で規模を拡大させてきた一方で、繰り返される不正疑惑によってスポンサーの離反も顕著になり始めている。
13チームが出場して1930年にウルグアイで第1回大会が開かれたW杯は、2014年ブラジル大会では32チームが出場し、賞金総額5億7600万ドル(約708億5000万円)にまでなった。FIFAにとってはまさに最大の「利権」だ。財務報告書によると、2011~14年の4年間で得た収入は約57億1800万ドル(約7075億円)。うち約48億2600万ドルがブラジル大会関連で得たもので、W杯開催地を決定する権限を持つ理事らに「金権体質」が広がる温床となってきた。18、22年W杯招致の不正疑惑の調査を実施した倫理委員会の調査部門トップが、解明に取り組むFIFAの姿勢に疑義を示して辞任する事態も起きている。
こうした腐敗根絶が進まない状況にスポンサーの間では離反ムードも広がる。6社あったFIFAパートナーからは、昨年末にアラブ首長国連邦(UAE)のエミレーツ航空と日本のソニーが相次いで撤退した。スポンサーを継続している米コカ・コーラも汚職事件発覚を受け「(汚職疑惑に)繰り返し懸念を表明してきた。(FIFAは自らの)使命に泥を塗った」と強く批判。同じく独アディダスも「コンプライアンス(法令順守)基準を策定すべきだ」などとする声明を発表した。
日本企業もFIFAとは距離を置く。先月、FIFA理事に当選した田嶋幸三・日本協会副会長が「残念ながら日本のスポンサーは少なくなっている」と話すように、ソニーの撤退で主要スポンサーに日本企業はいなくなった。サッカー日本代表のオフィシャルスポンサーを務めるキリンは「われわれは日本代表のスポンサー。FIFAの件にコメントする立場にない」と強調。日本代表サポーティングカンパニーのファミリーマートも「引き続き日本代表を支援していくだけ」と素っ気ない。20年東京五輪開催を控え、パナソニック、ブリヂストン、トヨタの日本企業3社と最高位のスポンサー制度「TOPプログラム」契約を結ぶ国際オリンピック委員会(IOC)との明暗が際立っている。(SANKEI EXPRESS)