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「人間とは何か」問い 社会とともに進化 企画展「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」
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日本のマンガ・アニメ・ゲーム文化は進化し、増殖している。それは、私たちの社会やデジタル・IT技術の進展から養分を吸収しながら変貌する“寄生獣”や“ロボット”のようだ。漫画家・手塚治虫の亡くなった1989年以降の作品を集めた企画展「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」(東京・国立新美術館)は、その変貌の一端を紹介している。
岩明均(いわあき・ひとし)のマンガ「寄生獣」(1989年~)の中に、主人公の高校生シンイチが、右手に入り込んだ寄生生物(宇宙の生物?)と論争する場面が出てくる。
シンイチが、人間に取りついた寄生獣が人間だけを食べる習性を非難して「悪魔」とののしると、「『悪魔』というのを本で調べたが、いちばんそれに近い生物は、やはり人間だと思うぞ」「人間はあらゆる種類の生物を殺し食っているが、わたしの『仲間』たちが食うのは、ほんの1~2種類だ…質素なものさ」と、痛烈なパンチが返ってくる。
手塚治虫「鉄腕アトム」のエピソードが原作の「PLUTO」(プルートゥ、2003年~、浦沢直樹、スタジオ・ナッツ著)は、近未来の「人間とロボットの共生社会」を舞台に、人間とロボットの関わり方を通して「人間とは何か」を考えさせる。
なかでも、アトムと、特別捜査官のロボット「ゲジヒト」との間に、“友情”が芽生える場面は考えさせられる。捜査情報を読み取るために、ゲジヒトから「記憶チップ」を借りて自分の人工知能に移し替えたアトム。ゲジヒトと妻の微妙な関係に気づき、別れ際に「今度は奥さんと2人で(日本に)来られるといいですね」と言葉を投げかける。さらに「あなたと奥さんなら大丈夫…何があっても乗り越えられます」と励ます。これを聞いたゲジヒトは「胸がいっぱい」になる。
ロボットの中では温かな感情が育っていくのに、人間の中からは、温かな感情が少しずつ消え去っていないだろうか。そんなことを思わずにいられない。
こうした作品を見ると、手塚の死後も、日本のマンガ文化は確実に新たな社会や世相を描こうと進化していると思えてくる。
1989年は、日本で年号「平成」が始まり、海外ではベルリンの壁が崩壊。アニメではドラゴンボールZやドラゴンクエストが放映され、任天堂の携帯型機器「ゲームボーイ」が発売された。その後のWindows95発売などでインターネット普及は急速に進み、日本のアニメやゲームも国際的な広がりを見せていく。
今回は「寄生獣」と「PLUTO」が含まれていないが、ここ四半世紀のマンガ、アニメ、ゲームの代表的な作品約150点を、ヒーローや日常性、リアリティー、ネット社会など8章の切り口に分けて展示している。例えば、第1章では、マンガ、アニメの王道ともいえるヒーローものに焦点をあて、「七つの大罪」や「名探偵コナン」「鋼の錬金術師」などを展示。時代の世相を映したヒーローの姿を紹介している。
今回の展覧会を担当した室屋泰三主任研究員は、「マンガ、アニメ、ゲームを総合的に概観していこうという企画。しかし、たくさんの作品があるので網羅的に展示することはできない。あくまでも8つの断面について展示を行った」と話した。(原圭介、写真も/SANKEI EXPRESS)
■「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」展 8月31日まで、国立新美術館(東京都港区六本木7の22の2)。一般1000円。火曜休館。(電)03・5777・8600。