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政治
「日本が戦争を画策」 誤報に踊る中国メディア
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国会で安全保障関連法案をめぐる審議が続く6月下旬、中国の主要メディアが、永田町でもほとんど話題になっていない日本政治の“大ニュース”に大騒ぎした。安倍晋三首相(60)が「中国との戦争を画策している」というのだ。事実であれば安保法案の審議は吹き飛び、国会は大荒れのはずだが、現実はそうなっていない。中国の報道を検証すると、捏造(ねつぞう)にも等しい誤報の存在と、他メディアの報道を検証せずに後追いする中国メディアの特性が浮かび上がる。
「『安全保障法案は南シナ海の中国に向けたものだ』『米国と一緒に南シナ海の中国をたたく』。この2つの安倍氏の発言にはどういう意図があるのでしょうか」
国内外の注目ニュースを特集する中国国営中央テレビの番組「今日関注」。6月30日の放送の冒頭、女性キャスターが投げかけると、男性コメンテーターはこう答えた。
「酒を飲んだ際に語ったということですが、総じて言えば、これは本音でしょう。しかも、これは中国人には聞かせたくなかった本音でしょうね」
約30分間の番組は、他のコメンテーターも交え、「安倍氏の発言」をめぐって討論を進めた。
中国の政府系英字紙チャイナ・デーリー(電子版、6月30日)も、同様の2種類の発言を安倍氏によるものだとして紹介。うち一つは中央テレビよりも詳しく、「日本は集団的自衛権を行使して、米国とともに中国をたたくべきだ」と伝えた。
中央テレビとチャイナ・デーリーが「安倍氏の発言」の根拠として示したのは、日本の週刊誌「週刊現代」(7月4日号)の記事だ。その一部を、中国共産党機関紙、人民日報系の国際情報紙・環球時報(電子版、6月29日)が中国語に翻訳して報じたことで、他の中国メディアも反応したようだ。
「週刊現代」の記事は、記者らとの懇親会の席上での安倍氏の「オフレコ発言」を扱ったものだった。その内容の真偽や、それを引用して記事を書くことの是非はここでは問わない。
だが、環球時報の記事には、見過ごせない大きな間違いがあった。安倍氏の発言とされる2つのうち、「集団的自衛権を行使し、米国と一緒に南シナ海の中国をたたく」は、週刊現代にも書かれていないのに、それを安倍氏の発言として報じたことだ。
内容が内容だけに、ひとたび報じられると波紋を広げた。
6月29日の中国外務省の記者会見では、「安倍氏の発言」に関する見解を問われた華春瑩(か・しゅんえい)報道官(45)が、「もし報道が事実であれば、日本側はしっかりと説明する必要がある」と述べる一幕があった。
「伝えられるところでは、日本の首相官邸はメディアに対し、安倍氏のこの発言を外に漏らさないように何度も脅した。一部の記者は自分の媒体では報道しづらいので、雑誌社にリークした。そう考えれば、安倍氏が酒を飲んで本音を語った可能性が非常に大きい」
中国国際問題研究院国際戦略研究所の蘇暁暉副所長は、6月30日付の人民日報(海外版)への寄稿でもっともらしくこう指摘した。だが、前提としているのは環球時報の記事の内容であるため、この分析はそもそも成り立たないはずだ。
環球時報の記事に明らかな問題があることは、引用元の「週刊現代」を確認すれば一目瞭然だ。にもかかわらず、中国の主要メディアはそれを怠り、後追い報道をしている。
今回の一件に限らず、中国メディアでは、あるメディアが報じた内容を真偽を確かめもせずに、自社の報道に利用するのが日常茶飯事となっている。
こうした中国メディアの悪弊を批判するのはたやすい。だが、明らかな誤報や捏造記事さえ、無批判に引用や転載が繰り返される過程で既成事実化され、中国世論に影響する恐れがある。ゆるがせにできない問題だ。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS)