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【アメリカを読む】大統領選は「知事」だらけ
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法案に署名し、笑顔を見せるウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事(共和党)。大統領選に挑む現職、元職の州知事たちの強みは、豊富な行政経験と指導力だ=2015年6月24日、米ウィスコンシン州ミルウォーキー(AP) 2016年次期大統領選への挑戦者が次々と現れる米共和党では、6月24日のボビー・ジンダル・ルイジアナ州知事(44)に続き、クリス・クリスティー・ニュージャージー州知事(52)、スコット・ウォーカー・ウィスコンシン州知事(47)が出馬を表明する。これから選挙戦が過熱するにつれて州の機能がストップしてしまうのではないかと余計な心配をしてしまうくらい「州知事」の肩書を持つ候補が多い。
州知事を務めた経歴を全面的に活用しようとしているのは共和党のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(62)だ。6月15日、出馬表明の演説で次のように述べた。
「米国が2008年からの経験で学んだことは、行政経験によって準備することが何物にも代え難いということ。ワシントンの混乱を作り出した張本人を選んでしまったら、ワシントンを浄化することはできない」
連邦上院議員の経験だけで08年大統領選で当選したバラク・オバマ大統領(53)を批判するのと同時に、共和党で指名を争う上院議員たちに「その資格はない」とレッテルを貼る狙いがあることは明らかだ。
共和、民主両党で最終的に出馬する予定の21人のうち、ほぼ半数の10人がブッシュ氏のような知事経験者か現職知事だ。共和党の16人の内訳をみると、知事8人(現職4人、経験者4人)、上院議員5人(現職4人、経験者1人)、民間人3人-となっている。
ニューヨーク州知事だったフランクリン・ルーズベルト(大統領在任1933~45年)を最後に、第二次大戦後は知事経験者が大統領に就く例が途絶えていたが、76年大統領選でジョージア州知事を務めたジミー・カーター氏(90)が当選して以来、6人の大統領のうち4人が知事経験者だ。
一方、戦後、上院議員を経験してから大統領になったのはジョン・F・ケネディ(大統領在任1961~63年)をはじめ、オバマ氏まで4人(大戦終結前に副大統領から昇格したハリー・トルーマンを除く)。民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(67)が大統領に就くことになれば、戦後5人目となる。
州知事か上院議員が大統領に挑戦する「登竜門」であることがよく分かる。
共和党では、州知事のウォーカー氏とマルコ・ルビオ上院議員(44)が大統領の資質をめぐって“空中戦”を展開している。口火を切ったのはルビオ氏の方だ。
「州知事でも外交政策について本で読んだり専門家から話を聞いたりすることはできるが、大統領になった一日目から外交政策をつかさどることはできない」
これに対し、ウォーカー氏はカリフォルニア州知事を経て大統領になったロナルド・レーガンの名を挙げて、「知事には指導する能力が本質的に備わっている。演説をするだけではなく、日常的に閣僚を使って決断することを求められているのだ」と反論した。
上院外交委員会に所属し、中国、キューバ、イランを批判する急先鋒であるルビオ氏と、公務員の労働組合との戦いで名を上げたウォーカー氏。ルビオ氏の外交・安全保障に関する知識とウォーカー氏の行政経験をともに生かすため、どちらかが「ランニングメイト(副大統領候補)」にまわり、大統領・副大統領候補のコンビを組んで選挙に臨むべきだとする意見がメディアや支持者から出ている。
州知事経験者が大統領になることが増えたのは、各州での党指名候補選びの方式が70年代に大きく変わったことが影響しているとされている。党有力者の意向が反映されやすい党員集会による選出をやめ、有権者が秘密投票する予備選方式を導入する州が増えたことで、ワシントンの「住人」でなくとも挑戦する道が開けたのだ。
これに加えて、医療保険制度改革(オバマケア)や移民制度改革などでオバマ氏と議会の対立が続いたことで連邦議会のイメージが悪くなっていることも、知事経験者がこぞって手を挙げる理由とみられる。
昨年11月の中間選挙で上下両院の過半数を握った共和党は、現職の民主党候補を不人気なオバマ氏と結びつけて攻撃する形で「ワシントン」の持つ悪印象をフル活用した。知事経験者と指名を争う上院議員たちは、いかにワシントンと適度な距離を取るかに腐心することになる。(ワシントン支局 加納宏幸(かのう・ひろゆき)/SANKEI EXPRESS)