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【佐藤優の地球を斬る】戦略なき米の対露外交 腰砕けの強硬策
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ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(左から2人目)との会談に臨む米国のジョン・ケリー国務長官(右から2人目)=2015年5月12日、ロシア・ソチ(AP) 米国のオバマ政権は、ロシアに対する外交戦略を持っているのだろうか。12日、米国のケリー国務長官がロシア南部ソチを訪れ、プーチン大統領、ラブロフ外相と会談した。会談終了後、行われたラブロフ氏との共同記者会見の席上、ケリー氏は、ウクライナ紛争をめぐり2月に成立した和平合意が完全に履行されれば、米国と欧州連合(EU)はロシアに科した制裁を緩和するとの方針を明らかにした。この出来事は、米国がウクライナをめぐる対露政策を抜本的に変更することだ。産経新聞が事柄の本質を正確に洞察している。
<【ワシントン=加納宏幸】ケリー米国務長官がロシアのプーチン大統領、ラブロフ外相との会談でウクライナ問題をめぐる対露制裁解除の検討に言及した背景には、イラン核協議やシリア内戦など中東をめぐる問題でロシアの影響力発揮が不可欠だという判断があるとみられる。
ケリー氏はラブロフ氏との共同記者会見の冒頭、ウクライナ問題に言及する前にイラン、シリアの問題に触れた。イラン核協議の最終合意期限が6月末に迫っていることを挙げ、「交渉は残り6週間となった。取引をまとめ、完全に履行させるためには団結がカギとなる」と、米露協力の重要性を説いた>(5月13日「産経ニュース」)
ドイツのメルケル首相やフランスのオランド大統領は、過激派「イスラム国」(ISIL)の台頭を背景に、対ISIL、対ロシアの二正面作戦を避けるため、ロシアに対して融和的姿勢に出た。これに対して米国のオバマ政権は、あくまで二正面作戦を貫くという姿勢を鮮明にしていた。
しかし、ここに来て、それが腰砕けになり、米国はロシアに膝を屈することになってしまった。
<また、(ケリー氏は)シリアやイラクにおけるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の掃討作戦に関し、ロシアは「暴力的過激主義に対する世界的な取り組みにおいて、非常に重要なパートナー」であると強調した。
シリアでは、未申告の軍事施設で猛毒のサリンやVXの関連物質が検出されていたことが今月になって判明し、米政府は懸念を強めている。シリア国内に化学兵器が存在し、イスラム国の手に渡れば、他国でのテロ活動に使われる恐れが出てくるからだ。
シリア内戦をめぐっては、和平仲介に当たる国連のデミストゥラ特使が6月末をめどに、シリア国内の諸勢力などとの個別協議を実施中だ。シリアの移行政府樹立に期待する米国は、ロシアがシリアのアサド政権を擁護する姿勢を転換することに期待している>(5月13日「産経ニュース」)
ロシアの対中東政策は、米国の影響力を極力低下させることを目的にしている。それだから、ロシアはイランとシリアのアサド政権を支持しているのだ。イエメン内戦に関して、ロシアはサウジアラビアが空爆などの非人道的行為を行っていると激しく非難する。イエメンでイランは、フーシー派(シーア派)に武力を含めた支援を行い、内戦が起きた。放置しておくとこの影響がサウジに及ぶ。それだからサウジは有志連合を組織し、フーシー派を攻撃した。ロシアの人道非難は、サウジに対してのみ向けられ、イランの干渉には目をつぶっている。このような形で、イランを間接的に支援することで、アラビア半島南部における米国の影響が弱まることをロシアは狡猾(こうかつ)に計算している。
現時点で、対露融和の姿勢を示しても、ロシアはそれをオバマ政権の「弱さの印」と見るだけだ。ウクライナにおいても、中東においても、オバマ政権が望むような協調体制をロシアと構築することはできない。米国には、ロシア式外交術が理解できないようだ。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)