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【佐藤優の地球を斬る】ドローン 過小評価せず対策と開発を

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【佐藤優の地球を斬る】ドローン 過小評価せず対策と開発を

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首相官邸の屋上で見つかった無人小型機「ドローン」(左の段ボールの下)=2015年4月22日午前、東京都千代田区(共同)  4月22日午前10時27分、首相官邸の屋上に無人飛行機「UAV(Uninhabited Aerial Vehicle、いわゆるドローン=drone)」が落ちているのを官邸職員が見つけた。飛ぶときに蜜蜂の雄のような音がするのが、ドローンという名の起源である。ただし、ドローンが無人暗殺機を意味することが多いので、この言葉を嫌い、UAVを用いる専門家も多い。

 官邸屋上で発見されたドローンは、中国製という。直径約50センチで、カメラが付いており、搭載されていたプラスチック製の容器には「RADIOACTIVE(放射性の)」と記され、放射性物質のセシウム134、137が検出された。セシウムは容器の周囲に付着していたようで、中に入っている液体が何であるかは発表されていない。犯行声明は出ていないが、政治的事件と見るのが妥当だ。社会を恐怖に陥れることを意図するテロリストは、あえて犯行声明を出さない。また、いたずら気分の模倣犯が出て、事態を複雑にすることも懸念される。

 産経新聞はこの問題を重視し、4月24日の「主張」でこう述べた。<国家の中枢に、やすやすと達した「侵入者」からは放射性物質が検出され、それを示す文字があった。国民の不安をあおる、極めて悪質な意図もうかがえる。

 日本は来年の主要国首脳会議(サミット)や2020年東京五輪を控えている。テロ対策の一環ととらえ、早急に防止策を講じるべきことは言うまでもない。

 ただし、多くの可能性を持つドローン自体を悪者視してはなるまい。安全かつ有効に、その機能を活用できる枠組みを作ることも同じく重要だ。

 菅義偉(すが・よしひで)官房長官は今回の問題を「行政の中枢の官邸にかかる事案」と重く位置付け、検討を急ぐ考えを示した。妥当である。

 警備が厳重とされる官邸も、上空からの「攻撃」には弱いことが今回、浮き彫りになった。まずは、官邸や原発など重要施設上空の飛行制限を行うべきだ。

 航空法など現行法の下で、ドローンは「模型」扱いとされ、空港周辺などを除けば飛行制限はなく、地上250メートル未満なら自由に飛ばせるという。

 だが、落下の危険に加え、やり方によっては攻撃能力を持たせられるドローンを、重要施設から遠ざける措置を設けておく必要はある。効果的な飛行制限区域の設定をよく考えてほしい>

 筆者もこの「主張」に賛成する。問題は、テロリストの場合、いくら規制を設けても、それを守らない。こういう場合は、ドローンによる攻撃と防衛の双方で卓越した能力を持つ米国とイスラエルの助言が有益だ。日本が一国で問題を抱え込まないことが重要だと思う。

 日本では、ドローンの軍事的、経済的、社会的意義が過小評価されている。米国の軍事ジャーナリスト、リチャード・ウィッテル著(赤根洋子訳)『無人暗殺機ドローンの誕生』(文芸春秋)を読むと、ドローンが戦争の仕組みを全面的に変える重要な兵器であることがわかる。本国にある安全な基地から、人工衛星を用いてドローンによって標的を偵察したり、攻撃したりすることが可能だ。日本が高性能のドローンを保有するようになれば、味方の人的被害を一切考慮せずに、中国の航空母艦を沈めることができるようになる。高度なドローンを持つ国が覇権を握ることになる。他方、ドローンをテロリストが運営するようになると、国民生活に甚大な被害を及ぼす危険がある。今回の事件については、前にも述べたように米国とイスラエルの専門家の協力を得て、真相究明と再発防止措置に努めるべきだ。それとともに日本も本格的にUAVの開発を進めるべきである。(作家・元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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