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政治
【官邸ドローン事件】空の無防備露呈 テロ懸念現実に
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小型の無人飛行機「ドローン」(屋上左の青いシート付近)が落下したとみられる首相官邸。空の無防備さが浮き彫りになった=2015年4月22日午後0時2分(共同通信社ヘリから撮影) 誰にも気付かれることなく首相官邸に侵入したドローン。厳重な警備体制が敷かれる官邸だが、空からの“攻撃”に無防備な実情が浮き彫りになり、衝撃が走った。海外で不審な飛行が相次ぐなどテロへの悪用も懸念されており、懸念が現実となった格好だ。菅義偉(すが・よしひで)官房長官(66)は22日の記者会見で「(ドローンの)運用実態の把握、法的機関が関与するルールの必要性、関係法令を早急にやらなければならない」と述べ、小型無人機などの運用規制も視野に法整備を急ぐ考えを示した。
警視庁警備部や麹町署が警備にあたる官邸。テロ事件にも対応する装備を持つ「総理大臣官邸警備隊」が配備され、厳重な体制が取られている。だが、ドローンは厳戒をすり抜け、屋上に着地したとみられる。
現行の航空法は人が乗った航空機を想定しており、無人の航空機に関する詳細な規制はない。ドローンに特化した法制度はなく、空港周辺など航空交通管制のある地域を除き、地上から250メートルまでなら届け出や申請なしに飛ばせる。
業界団体「日本UAS産業振興協議会」(東京)によると、国内では、プロペラを回転させるヘリコプター型の「マルチコプター」を中心に約2万機のドローンがあるとみられている。
日本UAS産業振興協議会は「操縦者のコンプライアンス徹底が大前提。危険な事態を防ぐには技術、制度両面から幅広くアプローチする必要があるが、課題は多い」とする。
政府は今回の事態を契機に、航空法改正を中心に行政機関や防衛施設などの上空での飛行制限や、小型無人機の購入を許可制にすることなど法整備を検討する。また、要人警護のあり方も見直す方針だ。
一方、今回の事件がテロかどうかについて菅氏は明言を避けた。菅氏は「ありとあらゆる政府(機関)に対して当然、注意を払っていかなければならない」と指摘した。その上で「今回の事案は国家の行政機関の中枢である首相官邸にかかる事案であり、警察で徹底した捜査を行うほか、危機管理に対して万全を期していきたい」と述べた。
小型無人機がテロに悪用される懸念が強まっていることに関しては、「ドローンなどの小型無人機の運用のあり方、またドローン等を利用したテロ対策について不断に見直し、テロの未然防止に全力を尽くしたい」と強調した。
≪広がる商業利用…相次ぐ墜落事故≫
無線操作や自動操縦ができるドローンは、災害対策や物流など商業目的での研究・利用が広がる一方、国内外では墜落事故も相次いで報告されている。
業界団体「日本UAS産業振興協議会」(東京)によると、近年、プロペラが複数ある「マルチコプター」と呼ばれる機種が開発され、価格も数千円からと安価で、操縦も簡単なことから用途が広がった。多くは中国製で、インターネットでも購入できる。約2万機ともされる国内のドローンはさらに増える見込みだ。
国も普及に向け動き始めている。国土交通省は今年3月にまとめた地域を支える持続可能な物流システムに関する報告書の中で、物流機能が弱い過疎地で、ドローンを活用した配達の仕組みに言及。4月6日の会合ではドローンの開発動向などがテーマとなった。
今後、離島や過疎地への薬品や食料輸送、災害地域上空からの観測、農地での作物の育成状況把握、ゴルフ場での自動体外式除細動器(AED)の運搬などの利活用が期待されている。
地域限定で規制緩和を進める「地方創生特区」でも、秋田県仙北市の国有林がドローンの実証実験場として選定されたほか、来年3月には、千葉市の幕張メッセで国内外から120社が参加する展示会が開かれ、ドローンの実演飛行やサービスの紹介が行われる予定だ。
産業振興協議会事務局の熊田知之局長は「米国でのドローン産業は10万人の雇用効果があるとされる。日本でも高い技術力を生かし、市場拡大を狙いたい」と話す。
普及の拡大が図られる中、国内外では事故も多発。米国・ワシントンでは今年1月、政府職員が操縦していた無人機がホワイトハウス敷地内に墜落し、周囲を一時閉鎖する騒動になった。フランスでも今年1月、大統領府周辺などで不審な無人機が複数回目撃され、現地警察が警戒を強めた。
国内でも、名古屋市の繁華街で昨年4月に無人機が墜落。神奈川県大磯町では昨年11月、マラソン大会の空撮中に墜落し、女性スタッフが軽傷を負った。(SANKEI EXPRESS)