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【佐藤優の地球を斬る】イランVS.サウジ 代理戦争化するイエメン危機
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イエメンの首都サナアで銃を掲げ、サウジアラビアによる空爆への対抗を訴える武装組織「フーシ派」の支持者ら=2015年4月1日(ロイター) イエメンでは、もともと近代的な国家が成立していなかった。これまで保たれていた部族間と宗派間の均衡が崩れ、内乱が激化している。3月28日、イエメンのハディ大統領は、サウジアラビアの首都リヤドに移動し、事実上亡命した。政府軍の統制が崩れたことにより、アルカイダ系組織が活動を強化している。
<西側外交官らは、イエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が権力の空白に乗じて勢力を拡大していると警告する。米国務省高官は「われわれはイエメンの情勢を注視している。イエメンでは治安は全面崩壊し、AQAPはそれに乗じて、勢力を伸長させる可能性がある」と述べる。
イエメンでは、政府軍が機能不全に陥っているため、強力なスンニ派部族が結集し、シーア派系の武装組織「フーシ派」と戦っている。スンニ派部族の中には、以前からAQAPの支持基盤となり、AQAPとともに戦ったり、AQAPの行動に目をつぶったりしている勢力もある。AQAPの宣伝部門は、「多数のスンニ派イエメン人は、AQAPと意見の相違があるものの、フーシ派と戦うためにAQAPと共闘するだろう」と訴え、新たに戦闘員集めに乗り出す意向を明らかにしている>(3月27日「ウォールストリート・ジャーナル」日本語版)
この状況で、フーシ派を支援するイランがイエメン情勢に本格的に介入し始めている。イランの最精鋭部隊イスラム革命防衛隊が、イエメンに非合法に入国し戦闘行為に従事している。通常、このような事態になれば、米国が軍事介入する。しかし、米国はイランを刺激することを恐れ、軍事的対応を取ることに躊躇(ちゅうちょ)している。そこで動き出したのがサウジアラビアだ。
<イエメンでイスラム教シーア派系武装組織「フーシ」に対するサウジアラビア主導の空爆が激化するなか、シーア派国家イランのアブドラヒアン副外相は3月31日、イエメン内のすべての対立勢力が参加する政治協議の開催を呼びかけた。
サウジアラビアとその同盟国であるスンニ派のアラブ諸国の当局者によると、3月下旬からフーシに対する空爆を始めたのは、イランとの核協議を抱える米国がイエメンへの軍事介入に二の足を踏んでいると結論づけたためだ。イランはイエメンのフーシを支援しているとみられている。
アブドラヒアン副外相はイエメンへの軍事介入では問題は解決できないとし、サウジとその湾岸諸国同盟は空爆を行うことで「自らを難しい立場に追い込んでいる」と述べた>(4月1日「ウォールストリート・ジャーナル」日本語版)
日本では、過激派組織「イスラム国」(IS)に関する報道と比較して、イエメン情勢についてのマスメディアの関心が低い。どうもイエメン紛争の戦略的意義が過小評価されているようだ。
現在、イエメン紛争が、イエメン国内のアルカイダ系組織とフーシ派の対立という構図から、サウジとイランの代理戦争に転化しつつある。「敵の敵は味方」という理屈で、サウジは事実上、アルカイダ系組織を支援している。しかし、アルカイダ系組織は、サウジに対する恩義はまったく感じていない。イエメンにおける支配領域を確立して、イスラム世界革命を志向していくであろう。アラビア半島にISだけでなく、アルカイダ系の拠点国家が形成されつつある。
今回の混乱の引き金を引いたのはイランだ。イランは、革命防衛隊をイエメンに派遣しても、米国は軍事介入できず、事態はイランに有利に推移すると誤認していた。サウジが軍事介入してくる可能性について考えていなかったのであろう。イランが国際情勢の撹乱(かくらん)要因であることがイエメン危機でも可視化された。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優