SankeiBiz for mobile

【佐藤優の地球を斬る】プーチン氏に従わない親露派分子

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの国際

【佐藤優の地球を斬る】プーチン氏に従わない親露派分子

更新

ウクライナ東部のデバリツェボ近郊の村で戦闘の準備をする親ロシア派武装勢力の兵士=2015年2月13日(AP)  ベラルーシの首都ミンスクでロシア、ウクライナ、全欧安保協力機構(OSCE)、ウクライナ東部を実効支配する親露派の代表者が12日に停戦合意に署名した。この合意は、ロシアのプーチン大統領、ウクライナのポロシェンコ大統領、ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領がミンスクで前日から16時間という異例の長時間交渉を行った結果、まとまったものだ。それにもかかわらず、ウクライナ東部地域での戦闘は止まず、停戦合意は危機に瀕している。

 鍵握る軍諜報総局

 <ウクライナのポロシェンコ大統領は18日、親ロシア派武装勢力との戦闘が続いていた東部の要衝デバリツェボから政権側部隊が撤退を開始したことを明らかにした。15日に停戦合意が発効したものの、親露派はデバリツェボで政権側部隊の数千人を包囲して攻撃し、事実上陥落した。ロシアの軍事支援を疑われる親露派が停戦違反によって支配領域を拡大したことで、和平合意は履行の初期段階で破綻の危機にひんした形だ。

 デバリツェボは、ロシアやウクライナの主要都市を結ぶ鉄道が交差し、東部2州の親露派支配地域を結ぶ幹線道路も通る重要都市。親露派地域に食い込む形で位置するため、同派にとっては軍事上の弱点ともみられていた。親露派は「包囲された領域は停戦ラインに当たらない」と主張し、15日以降も政権側への激しい攻撃を続けていた。

 (中略)デバリツェボをめぐり、ロシアのプーチン大統領は17日、訪問先のハンガリーでウクライナ軍は投降すべきだと発言し、物議を醸していた>(2月18日産経ニュース)

 米国は、ウクライナの親露派武装勢力とロシアは一体とみている。従って、プーチン大統領が明示的な指示を与えれば、親露派武装勢力の武力行使は止まると考えている。しかし、ロシアと親露派武装勢力の関係は、それほど単純ではない。ここで鍵を握るのはGRU(ロシア軍参謀本部諜報総局)だ。GRUは武器販売にも従事しており、簿外にプールした金を大量に持っている。

 要衝争奪終われば停戦可能

 筆者はGRUの現役だけでなく、OBとも独自のネットワークがある。ソ連時代、GRUはソ連共産党中央委員会の完全な統制下にあった。しかし、ソ連崩壊後、GRUは大統領府や政府の統制に必ずしも従わない事例が出てきた。チェチェンやモルドバの沿ドニエステル地区の武力衝突が悪化した背景にも、GRUの独自活動がある。

 ウクライナの親露派武装勢力は、そもそも義勇軍なので、ロシア軍の指揮命令系統に属していない。さらにそこにGRUの現役とOBが、自発的に協力している。親露派武装勢力は「関東軍化」していて、幹部にプーチン大統領の指示に従わない分子がいるので、ロシアの影響力行使に限界があると筆者は見ている。もっとも、東部の交通の要衝であるデバリツィボでの戦いが終結すれば、ウクライナ政府軍と親露派武装勢力の均衡がとりあえず達成される。この時点で本格的な停戦を実現することは可能だ。この機会を逸すると、ウクライナ東部の内戦は長期化する。

 二正面作戦避けよ

 欧米諸国や日本にとって最大の脅威は過激組織「イスラム国」だ。ウクライナ問題をめぐるロシアとの対立を解消しないと、欧米は「イスラム国」だけでなくロシアとも対峙する二正面作戦を余儀なくされる。ここで第二次世界大戦に至った過程を反省する必要があろう。英仏などの資本主義列強とソ連の対立を最大限に利用して、ナチス・ドイツが勢力を浸透させた。世界支配という自らの野望を暴力やテロに訴えてでも実現しようとする点でナチス・ドイツと「イスラム国」はよく似た存在だ。欧米とロシアの力を結集して「イスラム国」を封じ込めることに全力を尽くすべきだ。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

ランキング