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【佐藤優の地球を斬る】核で威嚇 プーチン大統領訪日は不適当

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【佐藤優の地球を斬る】核で威嚇 プーチン大統領訪日は不適当

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首都モスクワで開かれたクリミア編入1周年を記念するコンサートで聴衆に語りかけるウラジーミル・プーチン大統領=2015年3月18日、ロシア(ロイター)  18日、ロシアがクリミアを併合してから1年がたった。クリミア住民の大多数がウクライナ新政権を嫌い、ロシアへの編入を望んだのは事実と思う。しかし、国籍不明軍(実はロシア軍)が展開する中で行われた住民投票は、国際基準に照らして自由な民意の反映といえない。ロシア以外、現行国際法規範に反するクリミアのロシアへの併合を認める国連加盟国は一つもない。

 強弁と力で孤立突破

 しかし、ロシアはこのような国際的孤立を強弁と力によって突破することが可能と考えているようだ。19日、露国営ラジオ「ロシアの声」が報じた「ロシア・セヴォードニャ(今日のロシア)」のウラジーミル・レペヒン氏の論評がロシアの本音を伝えている。

 <西側の与党の政治家たちは、クリミアのナタリヤ・ポクロンスカヤ検事総長が述べた「ファシストのために働くよりも、監獄にいたほうがましだ」という発言の意味を理解できない。検事総長が発言したことが、クリミアの人々や、ファシストの手で殺害されたり、ナチスの強制収容所で虐殺された人々の子孫であるロシア国民が1年前に抱いた主な感情なのだ。人々は昨年2月末、キエフではネオナチが政権までをももぎ取ったと理解した。ネオナチが政権を握ったことは、その後ウクライナで起こったあらゆる出来事によって示された。オデッサでは数十人が焼き殺され、ドンバスでは砲撃によって女性や子供数千人が殺害され、ウクライナ国家親衛隊の監獄では住民が拷問を受けた。

 (中略)ドイツのメルケル首相は数日前、欧州連合(EU)はクリミアのことを忘れないと述べた。だが実際のところ、米国の支持に従う欧州の政治家たちは、何を記憶できるのだろうか? 欧州の政治家たちは、ウクライナを自分たちの領土とみなし、セヴァストポリはすでにNATOの基地であると考えていたこと、そして突然、ウクライナの最も魅力的な部分であるクリミアがロシアの一部となった!ことを記憶し、残念に思うだけだ。ここでは、西側の政治家たちが、「侵略者」としてロシアを嫌っていることが基盤にある。

 レペヒン評論員は、ロシア人について、欧州の政治家たちによるキエフのファシストに対する支持、「マイダン」のスナイパー、オデッサとドンバス、「ボーイング」を用いた挑発行為、現キエフ政権の卑劣さ、そして米国務省とEUがサポートしたことを忘れることは決してないと指摘している>(3月19日「ロシアの声」日本語版ウエブサイト)

 キエフの政権がウクライナ民族至上主義を取り、それに対してクリミア住民が不安を感じたというのは事実であろう。しかし、それ故に国連憲章に違反する領土変更が認められてよいという理屈は成り立たない。

 使用示唆に異議申し立てを

 15日、ロシア全土で放映されたテレビ番組「クリミア、祖国への道」で、プーチン大統領が「ロシアはクリミア情勢が思わしくない方向に推移した場合に備えており、核戦力に臨戦体制を取らせることも検討していた。しかし、それは起こらないだろう、とは考えていた」(15日「ロシアの声」)という世界を震撼(しんかん)させる発言を行った。プーチン大統領は慎重な性格なので、核政策をめぐる重要な問題で不規則発言はしない。

 プーチンは、ロシアの国益にとって死活的に重要と考える政策については、核兵器による威嚇を含む軍事手段を用いても強行すると宣言しているのだ。日本は唯一の被爆国である。プーチンの核兵器の使用を示唆する外交政策に対しては、強く異議を申し立てるべきだ。こういう乱暴に核カードを切るような政策をロシアが取っている以上、近未来にプーチン大統領が訪日することは不適当と思う。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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