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【アメリカを読む】「バグダッド陥落論」浮上も腰重いオバマ氏

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【アメリカを読む】「バグダッド陥落論」浮上も腰重いオバマ氏

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イラクのラマディが「イスラム国」に制圧されてから4日後の5月21日、ホワイトハウスで閣議に臨む(左から)ジョン・ケリー国務長官、バラク・オバマ大統領、アシュトン・カーター国防長官。首都バグダッド陥落の可能性さえ論じられるようになった今なお、大統領の腰は重い=2015年、米国・首都ワシントン(AP)  イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」がイラク西部アンバール県のラマディを制圧したことで、米国では首都バグダッド陥落の可能性が論じられるようになってきた。ラマディからバグダッドまでは幹線道路で約100キロ。しかし、バラク・オバマ米大統領(53)の腰の重さは相変わらずだ。

 「サイゴン」再び?

 「バグダッド陥落をいかに防ぐか」。保守的な論調で知られる米紙ウォールストリート・ジャーナルは5月27日付のオピニオン欄にこんなセンセーショナルな見出しを掲げた。米陸軍特殊部隊の士官や中央情報局(CIA)工作員としてイラクを含む中東経験が豊富なケビン・キャロル氏の論評だ。キャロル氏は、ラマディとシリア中部の古代都市パルミラの制圧によってイスラム国が高い作戦能力を示したと指摘し、オバマ政権がイスラム国を二軍扱いし続けていることを「間違い」だと断じた。

 イスラム国はラマディ制圧に当たり、トラックを使った10件の大規模テロを含む約30件の自爆攻撃を実施したが、キャロル氏は同様の攻撃がバグダッドでも起きる可能性があるとし、米軍に空爆誘導員や特殊部隊などの派遣を促している。

 ベトナム戦争が終結した1975年の「サイゴン陥落」と同じように、バグダッド陥落により米国の信頼が吹き飛ばされ、イスラム国に権威を与える恐れがあるというのがキャロル氏の見立てだ。

 ラマディ陥落を受け、米政府はイラクに供与する携行式ロケット砲を1000基から2000基に増やした。ただ、それを使う現地部隊の士気に信頼を置けないことが、南ベトナム軍が潰走を続けた末のサイゴン陥落が引き合いに出される理由だろう。

 「失敗」との認識変えず

 米国によるイラク政府への支援をめぐる論争に火をつけたのは、アシュトン・カーター国防長官(60)による米CNNテレビのインタビューでのラマディ陥落に関する発言だ。

 「イラク軍は明らかに戦う意思を見せなかった。数の面で敵をはるかに上回っていたが、戦わずして撤退した」

 米国はこれまで有志連合による空爆をはじめ、武器供与、訓練を通じて支援を続けてきただけに、イラク軍が大量の武器を放置したまま撤退したことに怒り心頭だ。

 カーター氏の発言に不快感を示したイラクのハイダル・アバディ首相(63)に対し、ジョー・バイデン米副大統領(72)が電話をして、火消しに乗り出したものの、米政府はイラク軍が「失敗」を犯したという認識そのものは変えていない。米国務省のジェフ・ラスキー報道部長も記者会見で「イラク当局者も軍の指揮、計画、増強が機能しなかったことは認識している」と語った。

 ただ、オバマ政権がイスラム国掃討作戦で場当たり的な対応を繰り返してきたのも事実だ。今春にもイラク北部の要衝モスル奪還作戦に着手する予定だったが、イラク側の準備が整っていないことなどから先送りされている。ラマディ制圧を受け、作戦の重点をモスルからラマディに移す方針だ。

 身内からも介入強化圧力

 「イラクで負けているとは思わない。戦術的後退であることは間違いない」

 オバマ氏はラマディ陥落後、米誌アトランティックのインタビューにこう答えた。オバマ氏としては、戦術レベルでは後退したものの、イラク側に武器供与や訓練を施し、有志連合はあくまでも支援に回るという自らの戦略自体は正しいと強調する狙いがあった。

 ただ、オバマ政権で国防次官を務め、長官就任を固辞したミシェル・フロノイ氏(54)は、CNN番組で「戦略への資源投入が足りない。イラク軍の訓練や助言により多くの要員を投入し、火力による支援も増強する必要がある」と述べた。

 イスラム国掃討作戦をめぐっては、1万人規模の部隊派遣を主張するジョン・マケイン上院軍事委員長(78)ら野党・共和党議員からだけではなく、フロノイ氏らかつての「身内」からも、オバマ氏に介入強化を求める圧力が強まっているのが実情だ。(ワシントン支局 加納宏幸(かのう・ひろゆき)/SANKEI EXPRESS

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