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【アメリカを読む】オバマ政権、サイバー攻撃制裁を強化
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米国家サイバーセキュリティー・通信統合センターを訪れ、スタッフらに訓示するバラク・オバマ大統領(右)。左は国土安全保障省のジェイ・ジョンソン長官。サイバー攻撃への対処は、米政府にとって喫緊の課題になっている=2015年1月13日、米バージニア州アーリントン(ロイター) バラク・オバマ米大統領(53)が中国や北朝鮮からのサイバー攻撃に対する反撃の一手を繰り出した。サイバー攻撃に関与した個人や組織を資産凍結や渡航禁止の対象にすることを可能にするもので、背景には民間企業に対するサイバー攻撃が相次ぎ、米国の安全保障が脅かされているとの懸念の高まりがある。中国側はすでにオバマ氏の対応に不満の声を上げているが、オバマ政権には国際社会での中国の存在感拡大を食い止めたいという思惑もあるとみられ、サイバー攻撃に関しては強い態度を示している。オバマ氏はこれまで中国との協調をアピールしてきたが、サイバー攻撃問題は今後も摩擦の火種になりそうだ。
「外国からの悪意のあるサイバー攻撃は米国の安全保障や外交、経済に非常に重大な脅威をもたらしている」。オバマ氏は1日に署名した大統領令で、サイバー攻撃の深刻さを指摘したうえで「非常事態」を宣言した。
大統領令は、財務長官によってサイバー攻撃に関与したと認定された個人や組織を経済制裁の対象とするもの。またサイバー攻撃によって盗まれたものだと知りながら、商取引上の情報を受け取ったり、利用した個人などへの制裁も可能になる。
オバマ政権はこれまでロシアによるクリミア併合や、シリアのアサド政権への支援などに関与した個人に対して制裁を科してきたが、サイバー攻撃については制裁のための枠組みが十分ではなかった。米政府高官は今回の大統領令について「サイバー攻撃の脅威と戦うためにはあらゆる手段が必要だ」としている。
米国に対するサイバー攻撃は深刻さを増している。昨年11月に米ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが攻撃された際には、ジョシュ・アーネスト大統領報道官(38)が「安全保障上の深刻な脅威」と表明。米議会からも対応強化を求める声が噴出した。また昨年5月には、中国人民解放軍のサイバー攻撃部隊「61398部隊」の将校5人が米原発大手ウェスチングハウスや、米鉄鋼大手USスチール、米アルミ大手アルコアなど名だたる大手企業に対するサイバー攻撃に関与したとして米国で起訴された。
一方、これまでもサイバー攻撃への関与を否定してきた中国側は、この大統領令に即座に反発。中国国営新華社通信(英語版)によると、中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道官は今月2日の記者会見で「国際社会は相手に対する尊敬と信頼に基づいた対話と協力によってサイバー攻撃問題を解決するべきだ」と述べた。サイバー攻撃の犯人は中国や北朝鮮だと主張する米国へのあてつけだ。
今回の制裁強化は、中国が年内の設立を目指すアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創立メンバーとして50カ国超を集めるなかで発表された。オバマ政権はAIIBが中国の影響力拡大のツールとして使われることを懸念し、水面下で各国に不参加を呼びかけながらも、英国、フランス、ドイツ、イタリア、豪州、韓国など重要な同盟国に相次いでそっぽをむかれるという屈辱を味わっただけに、中国への対決姿勢には「国際社会に対して『ルールに従わない中国』のイメージを強調したい」という思惑もちらつく。
こうした見方を裏付けるように、ジャック・ルー財務長官(59)は3月31日、北京での李克強首相(59)らとの会談からの帰国直後のスピーチで、「サイバー攻撃は受け入れられない。特に国家が関与している場合はなおさらだ」として中国を糾弾。また中国がIT企業に対して電子情報にかけた暗号の解読方法を治安当局に示すことなどを義務化しようとしていることについても「米中間の経済関係を損なう」と批判した。
またオバマ氏自身も18日のオハイオ州でのスピーチで環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉について触れ、「世界で最も速く成長している地域のルールが中国によって書かれることがないようにしなければならない」と言及。1月の一般教書演説でも述べたTPPの「中国包囲網」としての意味合いを強調し、米国の指導力を示そうとしている。
オバマ氏が中国に対して弱腰だと受け止められれば、2016年の大統領選挙で民主党候補が共和党から攻撃される材料になりうる。オバマ氏は気候変動問題などで中国との協調関係をアピールする姿勢が目立っていたが、同時に中国への牽制(けんせい)も強めていくことになりそうだ。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS)